ジミンが用意してくれた席についてコンサートが始まるのを待つ。
ザワザワとたくさんの人が集まっている会場で、1人だけ気分が落ちているのは私くらいだろう。
みんな幸せな顔をして今から始まるステージを楽しみにしているのに。
私がこんな顔してたらダメだ。
終わってからのことは後で考えればいい。
今はとにかくこの幸せをみんなと分かち合いたい。
客席のライトが全て消えると大きな音楽と共に歓声が上がる。
やがてステージに現れた7人。
そのうちの1人は私の大切なひとで、
そのうちの1人は私が手をあげたひと。
目の前まで来る彼らの姿を見つめながら、素晴らしいステージに息を呑んだ。
パフォーマンスは本当にいつも凄くて目を奪われる。
激しいダンスで飛び散る汗も、
ファンを見つめる優しい顔も、
素敵な言葉の数々も、
全部ステージ上でしか出ない特別なもの。
その一つ一つを目に焼きつけて一生の思い出にする。
曲の間奏で近くまでやってきたジミン。
しゃがみこんでファンと目線を近づけようとするところにキュンとした。
そんな彼を見つめているとバチッと目が合う。
私の席の場所もしかして覚えてる?
指差ししながらウィンクをする姿に、周りの10人くらいが一気に黄色い声をあげた。
まさか「あれは私に!」なんておこがましいこと言えないくらいの騒ぎで、むしろ
「私、もしかして目合った!?」とファンの気分を味わった。
その後も興奮状態で彼らを見つめ、あっという間に時間は過ぎていく。
コンサート後半に差し掛かった時、Vさんのソロが始まった。
彼がステージに出た瞬間、一際大きな歓声が上がる。
彼の顔が大きなスクリーンに映し出されて、それを見た瞬間あの瞳が私を惑わせた。
ただの1ファンとして見ているはずなのに心臓がドキドキと激しく音を立てる。
彼の曲は不思議で、魅力的で、切なげだった。
ど素人の私にはその振り付けの意味も細かいメッセージも、難しくて全て理解することはできないけれど。
それでも彼の曲に込めた感情がびしびしと伝わってきた。
漆黒の豪華な衣装と同じオーラを纏いながらステージ上で輝くその姿に、何故か目が離せない。
曲が終わる頃、あの瞳に再び囚われた気がした。
そんなはずはないのに、ステージから私を見つめているようで息が止まる。
彼をこわいと怯えていた私はどこに行ったんだろう?
その瞬間、この人をもっと知りたいという気持ちが湧き上がってきたことに気付いた。
彼の表現力の大きさとその完全無欠なオーラが、私を虜にさせる。
曲が終わってやっと気付いた。
あぁ、彼のあの瞳
綺麗で、冷たい
何も感じていないような、
何かを隠しているような。
あの瞳は、紛いもなく彼自身の心なんだと。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!