第7話

🍏差し入れ
1,900
2021/04/01 11:00
今日は撮影があるから楽屋に直接集合のはず。

昨日原因不明の鬱に襲われた俺は少し遅れて現場に入った。

Nm
遅いよー
Th
すみません
すぐにメイクとヘアセットが始まる。
メイクさんと少し会話をしてから椅子に座ると、鏡越しに既に準備を済ませたジミナが彼女と話しているのが見えた。
Th
今日も来てんの…
「あ、今何て…?」 

メイクさんに聞かれてやっと自分が声に出していたことに気付いた。

ごめん独り言です、と告げてスマホに視線を下げた。

暇だしゲームでも、、って思ったけど、後ろの声がうるさくて耳に障る。

いつの間にかメンバーのほとんどが2人を囲んでいて、余計に盛り上がっていると会話まで聞こえてきた。
Jn
あなたちゃん、差し入れまでしてくれてありがとね!
you
いえいえ、本当に…私がお邪魔しちゃってるのでせめてそれくらいは…!!
Hk
邪魔なんかじゃないよ?
Jm
ほら〜!ね?
あなたはいてくれた方がみんな楽しいんだから!
Jk
これ、早速もらっていいですか…?
you
あ、はい!うん!!もちろん!!
珍しくグガまでいる。
あいつが人見知りの壁取り払うなんて相当……

あの子、純粋そうに見えて実は計算高かったりしてね。
Hk
テヒョンア〜いちごあるよ、いちご!
後ろから声がかかって鏡の中を見上げると、ホビヒョンがイチゴの箱を持ってにっこり笑ってる。
Th
…いらないです。
Hk
え〜!?珍しっ……
そのまま、さかさかとヒョンが寄ってくる。
Hk
お前昨日から元気ないよ、体調悪いの?
Th
あ、はい…ちょっと。
Hk
無理すんなよ、
俺の様子を見て察したヒョンは、肩に手を置いてから去って行った。

一人でいたいことに気付いたんだろう。


1番最後の俺のセットが終わり楽屋を出る時、テーブルの上のイチゴが目に入った。

真っ赤に熟れて美味しそうで、箱の中で綺麗に並んでる。
"食べて"と聞こえてきそうなくらい、俺を見てる気がした。

さっきいらないと答えたのは何故だったんだろう。

あの時少しだけ寂しそうな顔をした彼女を見て、不思議と心が揺れた。


そう、邪魔な存在なんだよ
可能な限り他とは関わりたくない。
メンバーとは仕事しているんだからそれ以外はいらない。

勝手に入ってきて荒らしていかないで欲しい。

それが俺の本心だ。


だから断ったはずなのに。
そんな邪魔な存在からの贈り物を。


楽屋を出て廊下を歩き始める。

撮影が始まる直前だけど…

俺は左手に持った赤いイチゴを一粒、ゆっくりと口の中に運んだ。

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