次の日、卒業式の日。
なんとか天気は持ちこたえてくれたようで、雲はあるものの、程よい青空が気持ちいい春の訪れを表しているようでした。
あんな声をかけたものの、この天気の下では、茶色いままの桜の木はきっと冬の間よりもずっと寂しく見えてしまうでしょう。
ならいっそ、昨日の曇り空の方が良かったのかも。
俯きながらいつもの道を歩くと足元にピンク色の何かが散らばっていました。
顔を上げると、いつの間にか学校の校門前についていた事に気づきます。
校門前では、卒業生以外にも、近所の人や在校生までが足を止めてそれを眺めていました。
なかには口をぽかんと開けたまま立ち尽くしている人もいました。
あの桜の木が、満開になっていたのです。
これは異例の自体として、卒業式が終わっる頃には、地元のニュース番組であろうカメラまで来て、ちょっとした騒ぎになってしまいました。
僕は野次馬の中に薫さんがいないか探しました。
桜、咲きましたね。薫さんの言った通りだ。
そんなことを言いたくて。
この学校から離れる前に、桜の木がなくなってしまう前に、僕の夢を伝えたくて。
けれども入れ替わり立ち替わり来ては写真を撮っていく野次馬の中に薫さんの姿は見当たりませんでした。
僕は何時間も校門前に立っていました。
ついに辺りがオレンジ色につつまれ、風が出て寒くなると同時に人々の波は引いていきました。
それから取り残されるように、僕だけが、日常に訪れた非日常と対峙して佇んだままでした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。