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私の前を歩く善逸くん。
私の腕を掴む善逸くん。
どうしよう。涙が止まらない。
というか、いつまで歩き続けるんだろう。
そう思っていたら、ぴた、と目の前の足が止まる。
正面を向いてみると、蝶屋敷があった。
どうしてここに、と固まっていると、突然目の前の善逸くんが私の方を向く。
視線が絡まる。
「ぜ、善逸く」
「炭治郎に何かされたの?」
え、ここで話すの。
ふるふる、と首を振る動作をする。
「ちが、炭治郎くんには少し話を聞いてもらってただけで、本当に何もしてない。…されてない。」
指の腹で私の涙を拭ってくれる、善逸くん。
それでも…そのせいでまた溢れだしてしまう私の涙。
「じゃあなんでこんなに泣いてるの。」
ぎゅっ、と音がしそうなくらい私を強く抱き締める。
あぁ、なんだか昔を思い出すな。
そう考えているとまた涙が止まらなくなる。
「わかんない。もう分からないの」
「頭がぐちゃぐちゃで、もうなんで泣いてるのかも分からないの。」
善逸くんに優しくされて嬉しくて泣いてるの?
それとも、いままで悲しくても辛くても泣けなかった分の涙?
私にはもう、分からなくなっていた。
でも、
「でも、私が泣いてるのは善逸くんのせいなんだよ」
善逸くんの目が見開かれる。
次第に顔が歪んでいく。
「っ、ごめんね」
いたたまれなくなった私は、その場を走って離れる。
最低だ。私、最低だ。
とうとう八つ当たりしてしまった。
大好きな善逸くんに。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。