ハッと目を開く。
視界には見慣れた天井が広がっていた。
どうやら私は超屋敷の病室で寝かされているらしい。
先程の夢のようなものは走馬灯だったんだろう。
あれは、私の過去に怒った出来事だった。
でも何で忘れていたんだろう。
私は、過去に善逸くんと会っていた。
仲良く遊んでいた。
いつから忘れていたんだろう。
そう思考を巡らせていると、胡蝶様が病室にひょっこりと顔を出す。
「あなたさん!漸ようやく起きたんですね!」
「胡蝶様…私、どれくらい眠っていたんですか…?」
そう聞くと、胡蝶様は酷く安心した顔で
「かれこれもう2週間が経っていて、遊郭潜入した隊士の中では最後に目を覚ましたんですよ。皆さんすごくあなたさんを心配して…でも目が覚めてよかった。」
と教えてくれた。
もう皆意識が回復して、怪我もほとんど治ってきているらしい。
「そうだったんですね。…すみません、心配かけてしまって。」
「全くですよ。他の方にもあなたさんが目を覚ました事を伝えなきゃですね。…と、その前に」
胡蝶様は座り直して、私の方を向く。
「あなたさんに伝えなければならない事が2つあるんです。」
真面目な話だ、と感じ取り、寝かせていた鉛のように重たい身体を無理やり起こす。
「まず…これは伝えるか迷ったのですけれど…炭治郎くんが、花吐き病にかかりました。」
「え…」
それは本当ですか。
そう聞きたかったのに言葉が出ない。
「遊郭潜入の際にある女性と出会ったみたいで、それから…炭治郎くんは別の部屋で安静にしているので、身体が回復したら会いに行ってあげてください。」
それからもう1つ。
「あなたさんに続き、炭治郎くんが花吐き病感染者にかかり、このままでは他の隊士にも、あなた達にも危険に晒されると判断し、特効薬を完成させました。」
皮肉にも炭治郎くんまで花吐き病にかかってしまったおかげで、研究もすんなりできた、と静かに話す胡蝶様。
「じゃあ、炭治郎くんは花を吐かなくて済むんですか…?」
「薬を飲めばは一時的に吐かなくなりますよ。…ただやはり特効薬なので、完治という訳ではないのですが。」
カラン、と手のひらに収まるサイズのガラス瓶を胡蝶様に渡される。
「1回1錠、夕食後に飲めば効力は1日もつはずです。」
今は安静にしててくださいね。
そう言って病室を出ていく胡蝶様を見送る。
いなくなったのを確認したあと、炭治郎の元へおぼつかない足で向かう。
私のせいだ。
私のせいで炭治郎くんが花吐き病にかかってしまった。
今すぐにでも会って謝らなければ。
ごめんなさい、炭治郎くん。
*
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。