あれから数日経ったが、宇髄さんのお嫁さんから報告が来ることは1度もなかった。
「今日の出先は『京極屋』だ。」
日が空のてっぺんに登る少し前の時間。
藤の花の家で芸者の準備をしている時、宇髄さんが私に告げた。
「京極屋、ですか。」
確かそこは雛鶴さんが潜入していた場所だ。
もしかしたら鬼に関する手掛かりが何か掴めるかも知れない。気を引き締めていかなければ。
巾着袋から可愛らしい紅が入った包みを取り出す。
…以前、善逸くんから貰ったものだ。
きゅ、と1度祈るように抱きしめてから蓋を開け、薬指に少量取る。
''この色、あなたに似合うと思って!''
鏡には薔薇色に色付いた口があった。
紅箱を見ると、もう底が見えていた。
またひとつ、花を吐く。
「おいあなた、そろそろだぞ」
宇髄さんに呼ばれてハッとする。
これから任務なんだ。心を入れ替えろ。
この紅はしおらしくなるためにつけたんじゃない。
「はい、只今。」
三味線が入った長箱を持ち、花街に身を繰り出す。
*
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。