それからは大変だった。
「しのぶさん…はぁ美しい…」
「女の子に触ってもらえるの?!」
善逸くんは余すことなく近くの女性に蕩けるような視線を送り、甘い洋菓子のような声色で話しかける。
私以外の女の子に。
なんで私は違うんだろう。
なんで私には言ってくれないんだろう。
魅力がないのかな。
そう考える度に小さな花を吐く。
「そういえば、この花…なんて言うんだっけ」
任務帰りの団子屋さんで独りごちる。
匂いを嗅いだことある気がするような花。
先程私が吐いたその花をつまみながら観察する。
「あ、あなたじゃないか。偶然だな」
「炭治郎くん。…ほんと、偶然だ」
「任務帰りか?」
「うん。炭治郎くんは?」
「俺は…俺もお団子が食べたくなって来たんだ」
少しどもった炭治郎くん。
これは半分嘘をついているな、と思う。
「いや、最近段々とあなたの元気がなくなっていってる気がして…心配してたんだ」
彼は私の匂いを嗅ぎとったのだろうか。
…きっと花吐き病のこともすぐバレてしまうだろうな。
炭治郎くんは団子を1つ頼んだ後、私の方を向いた。
赫灼って言うんだっけ。綺麗な目と目が合う。
「何かあったら、俺や善逸を頼ってくれ。
君は昔から1人で抱え込んでずっと悩むんだ。」
俺たちはあなたが大切なんだ。と私の手を握る。
暖かい手。
これが善逸くんの手だったらもっと良かったのに、と最低な事を考えてしまう。
「…ありがとう炭治郎くん。…実はね、私」
炭治郎くんになら言っていい、と思った。
「私、花吐き病になっちゃったの。」
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!