第34話

ギンモクセイの花束を君に
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2020/05/17 17:44




鬼も身を潜む正午。
たまたま非番の時間が被った私と善逸くんは、久々に甘味処へ行く約束をしていた。

もう季節は秋で、市場では美味しそうな秋刀魚やら薩摩芋やらがまるで宝石の山のように売り出されていた。

あの春から…善逸くんと恋仲になってから、しばらく顔を合わせていなかった。

今日は久々に顔を合わせる。
正直ものすごく緊張する。


「予定より少し早く来すぎたかな…あ。」

懐かしいあの香り。
最後に嗅いだのは春だった。
白と黄色が入り交じるの光景は、きっといつまでも忘れない。


匂いの元を辿ると街路樹なのだろうか、やはりキンモクセイが咲いていた。隣には似たような白い花…ギンモクセイも仲良く咲いている。

近くでキンモクセイの香りを肺いっぱいに吸い込むと、噎せ返るほど強い香りが脳を占めた。

ふと足元を見ると、ポツポツと花を持つ小枝が転がっているのが目に入る。小さい子が手折って遊んだのだろうか。折れた部分は白く瑞々しい色をしていた。

私は手折られたキンモクセイとギンモクセイの枝を数本手に取り、自分の髪を結っていた紙紐でそれを結ぶ。

こんなのが花束とは言えないけれど。

差し出したら君はきっと驚きながらも嬉しそうに受け取ってくれるだろう。

枝を束ねている紙紐で、最近伸びてきた彼の髪もゆってみたらどうだろうか。きっと似合うに違いない。

私が花束を送るなんて、性に合っていないきもするけれど、君のそんな姿を想像するとなんでもないように思えちゃうんだ。

きっとこれから先も、私の隣で笑っていてね。

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