気が付けば、私は綺麗な花畑の中にいた。
三味線を持つ手は今よりふっくらしていて小さい。
「なに…これ?」
「あ!あなたちゃん!」
花をかき分けて私に手を振ってくる見知らぬ男の子。
いや、知ってる。つい最近思い出した、記憶の中にいた名前も知らない男の子。
男の子が振る手には、三味線が握られていた。
「先に着いてたんだ。ごめんね、待たせちゃって。」
「う、ううん!私もさっき来たとこだし」
勝手に口が開く。
何なのだろう。これは…夢?
「今日もお手本聴かせてよ!あなたちゃんの三味線の音は、すごく優しい音がするんだ」
ウットリ顔でそう言う男の子。
…なんだろう、聞いた事ある。見たことある、この場面。
胸がザワザワする。
「いいよ。ていうか__くん、私の三味線聴きたいだけじゃないの?」
「えへへ、バレた?」
私の声なのに、男の子の名前を呼んだであろうその声は、砂嵐のような音にかき消されてしまって聞き取れない。
また、勝手に身体が動く。
色とりどりの綺麗な花に囲まれて、私は三味線を弾く。月の明かりが私と男の子を照らしてくれる。
弾き終わると、控えめにパチパチ、と拍手をしながらキラキラとした目で此方を見る男の子。
やっぱりこの琥珀色の目には既視感があった。
「あなたちゃんの音、やっぱり好きだな。心地よくてずっと一緒にいたくなる。」
ふわ、と手を握られる。
「でも、でもね、」
そろそろ起きて。
微かに震える声。
ぶわ、と全身から汗が出る。
そうだ。男の子は、君の名前は___
*
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。