第13話

色褪せた追憶
1,497
2020/03/14 18:43




私は小さい頃に親に捨てられ奉行所を点々としていた。

そんな出生歴を持っていたために、寂しいとか愛とか、そんなものの感情がよく分からなかった。

だからに出会った時は、驚きの連続だった。

*

「…暗いなあ」

夜更け、私は尿意に襲われかわやに行くために奉行所の無駄に長い廊下を歩いていた。

夏だから寒さは感じないものの、そのじめじめとした空気と暗く怪しい雰囲気に身震いをひとつする。

早く、厠に着かないかな。

そう思いながら少し足速に廊下を進んでいる時だった。

ピタ、と忙しなく動かしていた足を止める。

「な、なに…なにか聞こえる…?」

目を閉じて耳を澄ます。
すると微かに子どもの泣き声が聞こえてきた。

声の先は、私が今現在進んでいる廊下の突き当たりからだった。

嘘でしょ嘘でしょ嘘でしょ。
厠に行くためには突き当たり真っ直ぐ進んで右に行くしかないのに。

しかし今でも限界の尿意を抑える術はない。
どうか幽霊じゃありませんように、と祈りながら突き当たりまで歩く。

泣き声の音量がどんどんつよくなっていく。
子どもはこちらに気付かず未だに泣いていた。

「だっ、誰?!」

私が近づくと、泣き声の主であろう子どもがそう言いながらガバッと勢いよく立ち上がった。

急のことだったので驚いて尻もちをつけば、泣き声の主は「あっ、ごめん」と言って私の手を掴み持ち上げる。

触れる。幽霊じゃなかった。

内心ホッとしながら改めて子どもを見てみる。
月明かりに照らされていて、子どもの顔がはっきりとよく見えた。

私と同じくらいの男の子で、不揃いに切られた黒髪、珍しい蜂蜜を溶かしたような琥珀こはく色の目には涙を溜めていた。

「君、だれ?」

その目に心を奪われた私は尿意すら忘れ、無意識にそんな事を聞いていた。




*


【宣伝】

こんにちは、お邪魔します、霜月です。
つい先日ついったはじめました。え、これってアカウント名晒していいの?ダメだったら即消しします。

【Twitter→@SMTK_zk】

ついったでも小説投稿を考えています。まだ何もしてないけど。
主に社会人パロやR指定の物等、ここで載せにくいものの内容置き場みたいなものです。
中学生以上の方は興味があったら覗いて見てください。(※R指定ものは高校卒業した年齢の方のみ閲覧をお願い致します。)

お邪魔しました。

プリ小説オーディオドラマ