「え、なん、で。」
遠慮がちに開かれた襖の奥から出てきたのは、歪んだ視界でも分かる鮮やかな蒲公英色をした黄色だった。
今いちばん会いたくないひと。
もう顔を合わせないようにと思っていたひと。
「いや、一応声掛けたんだけど返事がなかったからさ…」
善逸くんは、居心地悪そうに視線を逸らしながらそう呟いた。
それはあなたの事を考えていたから。
そんな事言えるはずもなく、顔を俯かせてしまう。
眼球から涙が落ちていく感覚がした後に布団に染みが出来るのを見て思考を放棄してみるが、ぎし、と床が鳴る音が鳴るので身体が反応してしまった。
善逸くんは、私の横に座り静かに話し始めた。
「お前、花吐き病だったんだ。」
初手からもうこの話である。
無視したかったけど身体は正直に反応してしまう。
ピクリ、と肩を震わせた私を確認してから善逸くんは言葉を続ける。
「あなたの好きな人って誰なの?」
微かに震えた感情を押し殺した様な声。
ちら、と善逸くんの方を見ると、膝に乗せている拳も微かに震えていた。
「…炭治郎?」
「ちがっ…違うよ。」
善逸くんの言葉に思わず反応してしまう。
今日初めてきちんと見た善逸くんの顔は八の字眉を更に下げていて、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
私と目が合った瞬間、善逸くんの宝石のような綺麗な瞳からボロボロと涙が溢れ出した。
「じゃあ誰なのッ?お、俺っ…あなたをこんな…苦しい目に合わせた男が憎くて憎くて仕方ないんだよ!!」
なんでこんな私のために涙を流してくれるのかさっぱり分からなかった。
嗚咽を漏らしながら叫ぶ善逸くんをぽかんと数秒見ていたが、だんだん腹が立ってきてしまう。
誰って、あなたなんですけど。
わからず屋。なんで気付かないの。ご自慢のお耳は飾りなのか。
私は白い花を一つ吐いたあと、思い切り息を吸い込んで一思いにこう叫んだ。
「もういい加減にして!!!」
この一声で、泣いていた善逸くんはビクッと肩を震わせ、涙で濡れた目を大きく開きながら私をぱちくりと見つめていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!