第30話

醜い
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2020/04/27 15:11




「もういい加減にして!!!」



空気が揺らぐ。
瞳の中のキラキラした色が揺らぐ。

心が揺らぐ。


「なんなのよ、いつもいつも色んな女の子にいい顔してデレデレして…一瞬でも本気にした私が馬鹿みたいじゃない…!」

零れ落ちたはずの涙は再度私の瞳を満遍なく濡らしていく。

「分かってるのに。私だけじゃないって、特別なんかじゃないって分かってるのに。いつも期待して落とされて…その上よく分からない所で怒られるし」

「私の事が嫌いなら優しくしないでよ、関わらないでよ、近づかないでよ!」

「そん…っ、違っ」

「善逸くんの優しさでもう、傷つきたくないの」


なんてしわがれた声なんだろう。

約2ヶ月間花を吐き続けたせいなのか、それともさっき叫んでしまったからなのか分からないが、とても醜い声だ。

声だけじゃない。

善逸くんは何も悪くない。
ただ善意で優しくしてくれているだけなのに、その優しさを勘違いして勝手に好きになって勝手に失恋して、勝手に傷ついているのを善逸くんにただ八つ当たりしてしまっているだけだ。

私はとことん醜い人間だ。


「…あなた」

「…もう出て行って」

「あなた!!」

必死に私の名前を呼ぶ声を無視出来ず、ほぼ反射で善逸くんの方を見てしまう。

私が善逸くんを見たのとほぼ同時だった。

仄かに広がるキンモクセイの香りが私を覆う。
視界は黄色に占領されていて

私は善逸くんに抱きしめられていた。




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