第31話

俺の事
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2020/04/30 13:17





「なに、するの。離してよ。」

じわじわと身体が熱くなる。
善逸くんの胸元を思い切り押して抵抗してみるが、びくともしなかった。

離れるどころか私を抱きしめる力が強くなる。



「ごめん」


善逸くんは消え入りそうな声でそう呟くと、より一層腕の力を強めた。

私はそれがどういう意味なのか理解出来ずただただ困惑してしまう。

「あなたが苦しそうな音をさせてるのは分かってた。何でだろうって、なんで苦しんでるんだろうってずっと思ってた。でも、俺のせいだったんだって」

「でもさでもさ、言い訳させてくれよ。俺、ずっとあなたと炭治郎が恋仲だって勘違いしてたんだ。あなたと話してる時の炭治郎は一等幸せそうな音をさせてたし、あなたも炭治郎も幸せそうだった。
だから花吐き病だって事も全然知らなかったし、炭治郎とあなたが幸せなら俺もそれで良いって思おうとしてたんだ。」

私を抱きしめている身体が震えていた。

「そう、思おうとした。…でも俺は炭治郎みたいに優しい人間じゃないからさ。ふとした瞬間に『二人の関係が壊れちまえばいいのに』って思っちゃうんだよ。」

「だから俺、そんな気持ちを何とかして忘れようとして色んな女の子に声掛けまくったり優しくしてみたりしたんだ。…するのも怖かったし」

それはいつもの事では。そう出かかった言葉を飲み込む。

「でもやっぱりあなたへの気持ちなんて忘れる事なんて出来なかったし、あなたじゃなきゃ駄目だった。

結局再発しちゃったんだ。」

さっきから再発って何のこと。

そう言う前に答えが出た。

漸く私から離れた善逸くんの口元には、ギンモクセイに似た、でも強烈な懐かしい香りと、彼の羽織と同じような色をしている花がぽつぽつと咲いていた。

「ぜん、え、…花…」

言葉を失う。
いつから?いつから発症していたの?

まさか、私が倒れたあとにあの花を触ってしまった?

「あなたの花には触ってないよ」

善逸くんは口元を拭いながら静かに言う。
ポトポトと布団の上に落ちる黄色の花は白によく映える。

「昔から発症してたんだ。あなたのお陰である時期から花を吐く事は無くなったんだけど、やっぱり完治はしてなかったみたい。」

「私の…?」

それも覚えてないんだね、と少し笑って寂しそうな顔をする。

「ねえ、あなた」

善逸くんは真剣な目で私を見ていた。

「俺の事、好き?」



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