第33話

塞がらない口から百合が出た
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2020/05/17 17:43




息が上手くできず、視界がぐるぐると回りながらも私の目が捉えたものは、一輪の銀の百合だった。

「すごく、きれい…だけど、これ……」

初めて吐いた花だ。
私が戸惑っていると、善逸くんはやはり泣き出しそうになっていた。

「あなた…!あなたッ!」

私の名前を連呼しながら飛びついてきた。
体制を崩し、思わず布団に背をつけてしまった。

「やった…!!良かった…良かったよぉあなた…!!」

なんだかとても喜んでいる善逸くんに対して訳が分からない私。

「ちょ、どういうこと?何がどうなってるのが良かったの…!」

善逸くんは、私を抱きしめたままで声を弾ませる。

「そっか、あなた知らなかったんだ。ごめんごめん。銀の百合を吐いた時、花吐き病は完治するって言われてんの!あなたは花吐き病治ったって事だよ…!こんな嬉しい事ないよねっ!!今日はアオイちゃんに頼んでお赤飯にしてもらおうそれがいい!」

私の胸にぐりぐりと頭を擦り付ける善逸くんは私より嬉しそうだ。

情報が多すぎていまいち理解ができない所があるが、どうやら私の花吐き病は完治したらしい。

「そっか…そうなんだ…」

善逸が渡してくれた紅箱を握りしめた。
じわじわと心が暖かくなる。まるで一緒に甘味処を巡ったあの日々のような心地良さに安堵する。


ねえ、善逸くん。


そう呼びかけると顔を起こし、柔らかな笑みを私に向けてくれる善逸くん。

目を閉じ、彼の少し湿った桃色の頬を手で包み込みこちらに引き寄せる。

「?!」

善逸くんの身体が硬直したのが分かる。
彼の唇は震えていた。


顔を離し目を開けると、善逸くんの目は見開かれ、小さな口は金魚のようにはくはくと動いていた。

なんて間抜け面なんだろう。
込み上げてきた笑いに耐えきれず吹き出してしまう。

「あっはは。善逸くん、変な顔。」

「え、だっ…ちょ…は…………?」

狼狽える善逸くんを畳み掛ける。

だってさっきは途中までしか言えなかったから。


情けない彼が、きっと精一杯の勇気を振り絞って私に伝えてくれたんだ。すごく尊くて、すごく歪んだ想いを。

だから私もきちんと彼の目を見て伝えるよ。
言い訳もしない。もう逃げない。


「私も、善逸くんが好き。大好きだよ。」

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