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炭治郎くんにくっついて分かったこと、どうやら花吐き病というのは触ってすぐ発症する訳では無いらしい。
じゃあいつ発症してしまうのだろう。
「それは…感染者の恋が拗れ始めた頃、じゃねぇの?」
「…え?」
藤の花の家紋の家で、着付けと化粧をしてもらっている最中だった。
襖を開けて立っている宇髄さんが、静かに言った。
「私、声に出てましたか…?」
「まぁな。花吐き病については俺もよくは知らねぇが、話だけなら聞いた事あるぜ。」
「はあ…でも、どうしてそう思うんです?」
感染者の恋が拗れ始めた頃に花を吐く。
じゃあ今の炭治郎くんは潜伏期間…のようなものになるのかな。
「そりゃお前、考えれば分かるだろ。…いや本当にそうかは分からねぇが、花吐き病の唯一の完治方法が想い人と想いが通じ合うなら、その想い人がいなきゃ延々花を吐き続けなきゃならねぇ訳だろ?」
まぁ、なんだか逆説的だけど妙に納得してしまう。
「腑に落ちない所はありますが…確かに恋をしていない、と炭治郎くんが言っていたし、有り得ない事は無いと思いますけど…」
それでも心配だ。
今花を吐いていなくても、いずれ彼に想い人が出来て、万が一にもその恋が拗れてしまったら。
そんな事を考えると罪悪感で押し潰れそうだ。
「まァそんな苦虫を噛み潰したような顔すんなって。折角別嬪さんにしてもらったんだからよ。オラ行くぞ」
「仕事の上官が容赦ない……」
そう、忘れかけていたが私と宇髄さんは潜入捜査の合同任務をしていた。
その為に藤の花の家紋の方に着付けと化粧を施して貰っている最中だったのだ。
場所は花街。その中に鬼が潜んでいるらしい。
気を引き締めて行かなければ。
とりあえず今はごたついた事情を忘れよう。
「そういやお前、我妻とは仲良くやってんのか?
この前あの野郎が俺のトコ来た時…」
「気持ち切り替えた瞬間に戻そうとしてくるのわざとですか?宇髄さん。」
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。