第38話

嫌いを裏返して/ガイア
1,992
2023/04/23 14:04
陽気なモンド人で賑わう酒場。

開店から閉店まで活気のあるこの場所が、私の職場だ。

雑用も酔っ払いの相手もお酒を作ることも楽しい。

でもほんの少しだけ、彼が来ると緊張する。
あなた

いらっしゃいませ〜

常連の彼に緩い挨拶を交わす。

いつも決まって、カウンターに座る。
ガイア
午後の死をひとつ
彼はいつも午後の死を注文し、周りの客と他愛もない会話をしながら酒を嗜む。

彼は客で私は従業員。

出来上がったお酒を差し出す。
飲み込む度に上下するその喉が私を狂わせる。
ガイア
お前の入れる酒は格別だな
あなた

好きでもない相手にそんな事言わない方がいいわ

誰にだって言っているくせに。

心の中で反論しておいた。

特にそれ以降は会話もなく時間が過ぎ、間もなく閉店。

静かになった店内にグラスを置く音だけが響く。
ガイア
アップルソーダを1杯
珍しい、と思いつつアップルソーダを作り彼の前に差し出す。
ガイア
あなたの分だ
あなた

じゃあ、お言葉に甘えて

何度その声に名前を呼ばれても慣れない。

名前を呼んでくれる時は静かだから、余計に。

そんな本音も甘酸っぱい果汁と一緒に飲み込んだ。
あなた

それ飲んだら帰ってよね

可愛げのない言葉と裏腹に私は残るお酒の量を確認した。

ああ、もう一口しかないのか。

早く帰って欲しいのに

まだいて欲しい

こんな気持ちにさせるガイアが心底嫌いだ。
ガイア
あなたは、嫌いの裏は何だと思う?
あなた

嫌いに裏なんてないよ

いまいち要点の分からない質問に
ガイア
嫌いの裏に好きは隠れてない、か
最後の一口が、無くなった。
ガイア
また来るぜ
あなた

ほどほどにして

代金を置いて店を出る彼の背中を扉が閉まるまで見つめていた。

まだ温もりの残る椅子に座り机に伏せて、聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。
あなた

ほんと、嫌い

素直になれない自分のことも

その歩けば揺れる長い髪も

グラスを持つ細い指も

私を呼ぶ低い声も

輝きを秘めた瞳も

飲み込む度に動く喉も

その胡散臭い話し方も

時折見せる優しさも

全部、大嫌いだ。
大変お待たせ致しました😭😭

1ヶ月も放置してしまい申し訳ないです

4月から新生活が始まり忙しくてなかなかログイン出来ずでした、落ち着いてきたのでまた少しずつ書けたらなと思います✋

そしてこのお話下書きに眠っていました

2022年だそうです、供養。

最後までお付き合い頂きありがとうございます🫶

プリ小説オーディオドラマ