陽気なモンド人で賑わう酒場。
開店から閉店まで活気のあるこの場所が、私の職場だ。
雑用も酔っ払いの相手もお酒を作ることも楽しい。
でもほんの少しだけ、彼が来ると緊張する。
常連の彼に緩い挨拶を交わす。
いつも決まって、カウンターに座る。
彼はいつも午後の死を注文し、周りの客と他愛もない会話をしながら酒を嗜む。
彼は客で私は従業員。
出来上がったお酒を差し出す。
飲み込む度に上下するその喉が私を狂わせる。
誰にだって言っているくせに。
心の中で反論しておいた。
特にそれ以降は会話もなく時間が過ぎ、間もなく閉店。
静かになった店内にグラスを置く音だけが響く。
珍しい、と思いつつアップルソーダを作り彼の前に差し出す。
何度その声に名前を呼ばれても慣れない。
名前を呼んでくれる時は静かだから、余計に。
そんな本音も甘酸っぱい果汁と一緒に飲み込んだ。
可愛げのない言葉と裏腹に私は残るお酒の量を確認した。
ああ、もう一口しかないのか。
早く帰って欲しいのに
まだいて欲しい
こんな気持ちにさせるガイアが心底嫌いだ。
いまいち要点の分からない質問に
最後の一口が、無くなった。
代金を置いて店を出る彼の背中を扉が閉まるまで見つめていた。
まだ温もりの残る椅子に座り机に伏せて、聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟く。
素直になれない自分のことも
その歩けば揺れる長い髪も
グラスを持つ細い指も
私を呼ぶ低い声も
輝きを秘めた瞳も
飲み込む度に動く喉も
その胡散臭い話し方も
時折見せる優しさも
全部、大嫌いだ。
大変お待たせ致しました😭😭
1ヶ月も放置してしまい申し訳ないです
4月から新生活が始まり忙しくてなかなかログイン出来ずでした、落ち着いてきたのでまた少しずつ書けたらなと思います✋
そしてこのお話下書きに眠っていました
2022年だそうです、供養。
最後までお付き合い頂きありがとうございます🫶
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!