あとは25と16。あ、36でもいけるな。
ムッとして振り返るとワイングラスを片手に椅子に座っている失礼な声の主。
綺麗な足を見せつけるかのように組んでいる。
上がった口角も華奢な体もあの頃のままで懐かしさにまた眩暈がする。
『久しぶり』と笑いながらグラスの中を一気に空にしたモモ。
これただのブドウジュース。
ツッコミどころ満載な性格もそのままで思わず頬が緩んだ。
その見た目や性格から男女関係なくモテまくっていたモモ。
そんなモモは一歳下のみーたんが好きだった。
誰から告白されても『好きな子がいるから』の一点張りで断り続けて、
そのくせ本命には一回も想いを伝えずに高校を卒業した。
言葉の意味に気づくのに結構かかった気がする。
照れたように頭を掻くモモ。
夕陽のさす教室で『実はみーたんが好きなんや』と打ち明けてきた時と同じ顔で、
モモはみーたんじゃない人を愛しているという。
カチリ。止まった時間がまた動き出す。
モモの言葉をかき消すようにビンゴの進行役が『36!』と数字をコールした。
席を立って景品を取りに行こうとするとモモに『あのさ』と引き留められた。
ーー今度の結婚相手にみーたんの面影があるんや
優しい声とか、目を細める笑い方がそっくりであの人なら好きになれるかもしれんから
それを聞いた途端、モモが唇に立てた人差し指も狙ったようにしたウインクもなぜかいっぺんに滲んだ。
確実に流れている時間とそれでも変わらない何か。
モモが誰のことを言っているのか分かっていた。
お酒が入ってハイテンションな幹事兼ビンゴの進行役は無駄にはしゃいでいて
いかにもなラッピングが施されたプレゼントを渡してきた。
周りの友達からは元気でお調子者のイメージが強いダヒョン。
だけど、サナと一緒にいる時はむしろ静かで落ち着いていて
その雰囲気に包み込まれているようで心地よかった。
トクベツねぇ。
苦笑いしながらありがとうと受け取ると、ダヒョンは『それから』と声をワントーン落とした。
周りから四角になるところでそっと私の手に何かを握らせた。
そして秘密を打ち開けるときのような真剣な顔をして言った。
『今夜0時、あの場所で』
言い終えるとすぐに進行役に戻っていったダヒョン。
どこか遠くにその声を感じながらゆっくりと手を開く。
記憶にあるよりも茶色く錆びている。
これは昔、ダヒョンが秘密で作ったカギだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。