7つのグループの狭間で人に埋もれながら、奥中央の大きな鏡を見失わない様に歩いていく。
背の小さな私は、ザワザワと動き続ける背の高い壁の間からぶつからない様にすり抜けた。
人混みの中をかき分けながら、次々に私の前に出てくる他人の足に注意する。
(こ、こんなに広かったっけ?)
と、不安になるほど鏡までが遠く感じる。
『ドンッ!』
いきなり迫ってきた誰かの背中に私の体は吹っ飛ばされる。
よろけた私はすぐさま振り返ると、
フードを被った男子学生がこちらに不機嫌そうな面を向けた。
(ま、待って、これ夢だよね?!なんでこんなに迫力あるわけ?!?!)
人混みはますます盛り上がりを見せて居るのか、私と男子学生との話し声は掻き消されてしまった。
そのせいで誰もこの状況に気づいていない。
膝を少し折り曲げ、両腕を体の前でギュッと畳んでしまった私は、立っていながら最小のサイズになった。
こちらへとジリジリと寄ってくる男子学生を前にして、私はもう動けそうにない。
(こ、怖すぎる…!)
ぎゅっと瞼を閉じた時、
大きな影が私の上に重なったのが分かった。
身体に力を入れて縮こまったまま、
ゆっくりと目を開く。
そこには私よりもずっと大きい式典服を着た背中があった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!