辺りを見渡していると、奥の方に雑巾が掛けられた幾つか上に重ねられたバケツを見つけた。
しゃがんで恐る恐る中を確認するが、虫も居ないみたいだ。
(何だかんだでお手伝いに来てくれるグリムはやっぱり優しい。)
私はグリムの優しさを感じると、「ふふふ」と自然と笑みが零れた。
そのままバケツを手元に引き寄せる。
(って、あれ? この話、さっきグリムにしなかったっけ?)
フワッと上から箒と箕が天井の方から下りてくる。
私はそっと箒の柄を掴み、箕を受け取った。
(あれ、グリムってこんな事も出来るの?)
取り敢えず礼を言おうと顔を上げた時だった。
『ゴトッ、』
目の前でふわふわと浮いている相手に私はあんぐりと口を開け、
驚きのあまり手からは箕が滑り落ちた。
にっこり笑った目の前の相手に私はあわあわと口を開けたり閉めたりする。
ブラックよりのグレーのマントを羽織り、真っ黒なシルクハットを頭に乗せている。
脚はないが真っ白でふっくらとした両手が下へと下ろされていた。
フワフワと宙に浮く姿は正真正銘、ゴーストそのものだ。
悲鳴を上げかけた瞬間、
とんでもないボリュームの悲鳴が私の後方から建物内に轟く。
すぐさま振り返ると、私は箒を両手で抱えたままお風呂場を飛び出してグリムを探した。
(グリムの声…こっちの方向からだ!)
『バタバタバタッ…』
グリムの声がした方へと走っていくと、そこは玄関より少し手前の場所だった。
グリムの小さな体とは対照的に、ふわりふわりと大きな体が2つ浮いている。
(私が会ったゴーストとは違うゴーストがいる?!)
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。