『パチンッ』
彼が指を鳴らすとキラキラとした風が何処からともなく吹いて来て、
私達の周りを回って消えた。
(魔法……何だか今日は凄い夢を見てる気がする。)
「では、降りるとしよう。」と、階段を降りていく彼の後ろに私も続いた。
クルリと後ろを向いた彼が、私の首へと手を伸ばす。
『スッ…』
彼は私の首の後ろへと手を伸ばし、何かを頭に被せた。
(び、びっくりしたぁぁああっ!!!く、首絞められるのかと…!!!)
被せられたフードの端を摘み、深く被り直しながらホッと胸を撫で下ろしていると、
彼の目がまだ私に向けられている事に気づく。
彼より2、3段程上に居て、やっと彼と同じぐらいの身長だった。
始めは何が小さいと言っているのかが分からなかった私も、
彼の視線が私にあるのをヒントに、今自分が『小さい』と言われている事を悟った。
クラスの女子の中で背の低い順に並ぶと、私は大体前から2番目ぐらいだ。
先頭になる事はあるが、3番目になる事は無い。
簡単に言えば、私はチビの類に充分に入るという事だ。
(でも、この人は少し…いや、結構身長が大きい気がするけど。)
「フードを外すな。」と再度忠告してくれた彼はゆっくりと階段を降りていく。
その後ろ姿を見ていると、
さっきの本を選んでいる姿が思い出される。
(…さっきまで自分の本を選んでたんだよね。その時間をまた潰しちゃうのはちょっと…ね。)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!