更に機嫌を悪くしたグリムの炎は勢いを増すばかり。
生徒達は大混乱の渦の中に飲み込まれ、
青い炎は私達を鳥籠の様に囲った。
赤髪の男と眼鏡の男が結託してからは早く、
不思議なペンの様な長さの杖から様々な光を出してはグリムを追い込んでいく。
学園長の影からじっとグリムが逃げ惑う様子を見つめていた私は、
グリムが「絶対にこの学園に入るんだゾ!」と何度も叫んでいるのを聞いていた。
あっという間に行き止まりに追い込まれてしまったグリムが力いっぱいに再び叫んだ。
(また、叫んで…)
赤髪の男の杖がグリムに向けられる。
(何か強い思いがあるんじゃ…)
その瞬間、ふと自分が今傍観者である事に気づき、嫌な記憶が蘇る。
『あなたちゃんってさぁ、何考えてるかいまいち分かんないよね。』
悪口を言わない私が引っ越した先の学校で、私はそう陰口を言われていた。
だから…
怖くなった私は、悪口を言われている子に思ってもいない様な陰口を口にした。
何をされた訳でも無いくせに。
私自身が周りから嫌われないようにする為に。
例え、その後に悪口を言われ続けた子をどう助けようと、
私の過去からはその事実は消えない。
誰かに何かを必死に訴えようとする、その子の言葉も、目も、何もかも…
自分が可愛いが為に、
" 見て見ぬフリをした " という過去は────
悪足掻きのように唸り声を上げて青い炎を身に纏うグリムに対し、
決して杖を下ろさない赤髪の男。
呪文を唱えようと口が動きかけた途端、私の足は動き出した。
きっと、夢の中なら────
いや、夢の中だけなら────
────私が好きな自分に…
なれるような気がしたから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!