(って…私、こんなに広い学園内で簡単に出口に辿り着けると思ってんの?(泣) 走ってきた自分が1番分かってるのにっ。)
(本当は大丈夫じゃないですぅぅうううっ!)
(うっ…今言われた通りに……私行けるかな…?)
私の顔を暫く見上げ続けるので、私は彼に向かって軽く頷いた。
『コクン』
(って、夢の中だからもう会えないかもしれないな………もう一度、この人に会えますように!)
一度も顔が緩む事の無かった彼の顔が微笑みを見せた。
彼の隣を横切ると私は軽くお辞儀をして、
図書室らしき部屋を出た。
『キキィッ、バタンッ。』
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さっきの角の付いた彼に教えて貰った通りに歩いていたつもりが、
一向に門の姿は見えない。
どうやら私は完全に迷ってしまったようだ。
(折角、グリムから姿が見えない魔法をかけて貰ったのに…)
『スタ、スタ、スタ…』
さっきまでは逃げるのに必死で気づかなかったが、
辺りはすっかり日が暮れている。
寧ろ、夜と言ってもいい。
廊下の石の柱に歩み寄ると、今度はピタリとくっついてみる。
ひんやりとした石独特の温度が心地いい。
『ドギッ!!!』
突然の声と、トンッと置かれた手に心臓が掴まれたかの様に跳ねた。
不安定なリズムを刻み出す心臓、
肩に置かれた知らない男の人の手。
怖くて振り返れない私に男は話掛け続けた。
(げ、扉?! 何それ、知らない知らない!!!)
『フワッ』
私の体からキラキラしたものが消えていく。
角付きの彼から掛けて貰った魔法が解けていくのが分かった。
そんな事をしたらグリムに見つかってしまう、と慌てて振り返る。
そこには鳥のような仮面を被った背の高い男が立っていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!