ジンジン、ヒリヒリと特有の痛みが走った指先を見つめていると、
グリムが「まぁいい、」と話を切り出した。
グリムが指差す服を見下ろした私は思わず驚きの声をあげた。
浅い詰襟シャツの上に大きなマントを羽織り、
腰には大きな帯のようなサッシュベルトが巻かれていた。
マントの裾は長く、ズボンがすっかり隠れてしまう程だった。
シャツの胸部分、マントの袖口や裾、内側の細かいところまで金色の糸で華やかな模様が刺繍されていた。
全体的に黒と紫で締めたデザインの服はシンプルで、今まで見た事がないくらい格好良かった。
『ゴアァッ!』
一息で炎を吹き出すように撒き散らしたグリムを前に、
私は背を向け慌てて走り出す。
『バタバタバタッ!!!』
古い石のタイルが貼られた、いつかのファンタジー小説で読んだかの様な廊下らしき場所。
クロス格子の窓が何枚も貼られ、連なるように配置された机が並ぶ教室らしき場所。
井戸と大きなリンゴがなっている木がある中庭らしき場所。
どれも私が見た事の無い、
いつか想像したファンタジーチックな造りを模した " らしき場所 " ばかり。
飛び込んでは直ぐに走り抜け、
飛び込んでは直ぐに出て行きを繰り返しながら、
追いかけてくるグリムから逃げ惑う。
『バタバタバタッ』
(と、とりあえずここに…っ)
ほんの少し開いていたドアを開け、入ろうか悩んでいると、
まるで鬼婆のように両手を突き出す様に追いかけて来るグリムが、
振り向きざまに私の視界に入った。
私は咄嗟の判断で部屋に入り込む。
『───キイッ、バタンッ』
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!