結局、何事もなかったように家まで送ってくれた清瀬くんによって、"キス未遂"(?)のまま遊園地デートは幕を閉じ───。
ついに、この日がやってきてしまった。
お試しで付き合って1ヶ月。
今日は、清瀬くんの彼女でいられる最後の日。
だけど清瀬くんは、朝からずーっといつも通りで、『え?今日で本当に最後だよね?』と私はソワソワ。
そのままズルズルと1日は過ぎ、ついに放課後になってしまった。
それに、今日で1ヶ月。
私たちのお試し期間は終わってしまうのだから。
そんな言葉を飲み込んで、あおばと、莉子ちゃんの言葉を思い出す。
2人の言葉に励まされて、私の中に淡い期待が過ぎる。もしかしたら、このまま……。
もし清瀬くんが、今の関係に少しでも心地良さを感じてくれているなら……。
私たち、このまま本当の恋人になれる?
やっぱり、気付いてなかったんだ。
人もまばらな教室で、精一杯の告白。
誰も、私と清瀬くんの会話を気にする人なんていないけど、私は決死の告白に今にも意識が遠のいてしまいそうだ。
できれば、ほんの少し。
私との毎日を楽しく思ってくれていたりしませんか。
できれば、ほんの少し。
一緒にいる中で、私への気持ちが芽生えてくれていたりしませんか。
……願わくば、清瀬くんにとっての"特別"に。
現実は、そう……上手くは行かない。
分かっていたはずなのに、期待してしまう自分を止められなかったのは、それだけ清瀬くんの事が好きだから。
放課後デートも、一緒に過ごした昼休みも、球技大会でくれたリストバンドも、楽しかった遊園地も。
1人で勝手に浮かれていただけだった。……思い出す度に涙があふれそうになるのをグッと耐えて笑顔を作る。
お試しお付き合いをする前は、清瀬くんの1ヶ月を自分のために使ってもらえるなんて贅沢だと思っていたのに、
欲張りになった自分の心が嫌になる。
清瀬くんに背を向けて、歩き出す瞬間。
……私は、この恋を、清瀬くんを諦める決意をした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!