冷たい風に、つい首をすくめる。
あれから、あおばと久しぶりにカラオケで盛り上がり、気づけばすっかり暗くなってしまっていた。
『もう暗いし、送ってく』
そう言ってくれた清瀬くんは、もういない。
日に日に増してゆく寒さを感じるたびに、夏から秋にかけての清瀬くんと過ごした楽しかった日々を思い出してしまう。
……あぁ、もう。
全然忘れられてなんかないじゃん。
寒さに凍えながら、なんとかたどり着いた家の前。
そこにいたのは、ブレザーのポケットに両手を突っ込んで、同じく寒さに凍えている凪の姿。
凪とは、凪の宣言通り、私が清瀬くんとお試しでお付き合いを始めてから会うことがなくなって。
あー、避けられているんだなぁって。
一度ちゃんと話そう!って、凪の家を訪ねたこともあったけど、結局、会えないまま無念の帰宅。
それっきりになっていた。
凪が、こんなに一生懸命に何かを伝えようとしてくれているのは、きっと出会ってから初めて。
それほど、莉子ちゃんは凪の中に大きな風を吹かせたんだね。
凪の言葉にドキッとしたのは、諦める決意をしたくせに、まだ私が清瀬くんを好きだから。
私には頑張る気力なんて残っていないけれど、ここで否定してしまったら、凪の頑張る気持ちまで削ぎとってしまいそうで……。
口元に笑みを作って"うん"と一度、力なく頷いた。
***
凪side
とある日の昼休み。
たまたま見かけた莉子の兄貴を呼び止めた俺。
わざと、ひよりの幼なじみを前面に出して行く俺に、分かりやすく莉子の兄貴の顔が曇る。
そう言った莉子の兄貴の顔が、あんまりにも寂しそうで、見てるこっちまで胸が苦しくなる。
……自分の気持ちに気づいてない頃の、俺と同じ。
早く自覚しないと、誰かにひより持ってかれっぞ。それに、ひよりのこと幸せにしてくれなきゃ、俺が困る。
俺だけ幸せになったら、ひよりに申し訳が立たない。
わざと煽るような言い方をして、気持ちを揺さぶる。目を見開いて言葉を失っている莉子の兄貴を残し、「それじゃ、また」とその場を後にした。
あーあ。この先、本当に俺が好きなのは莉子だって言っても、あのシスコンに信じてもらえないかもなぁ。
ま、その時は認めて貰えるまで頑張るしかない、かぁ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。