第22話

恋と憧れ
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2022/09/29 23:00
冷たい風に、つい首をすくめる。

あれから、あおばと久しぶりにカラオケで盛り上がり、気づけばすっかり暗くなってしまっていた。

『もう暗いし、送ってく』
そう言ってくれた清瀬くんは、もういない。

日に日に増してゆく寒さを感じるたびに、夏から秋にかけての清瀬くんと過ごした楽しかった日々を思い出してしまう。

……あぁ、もう。
全然忘れられてなんかないじゃん。
西村 凪
西村 凪
……おかえり
木下 ひより
木下 ひより
───!
び、びっくりした……
凪?なにしてんの?
寒さに凍えながら、なんとかたどり着いた家の前。

そこにいたのは、ブレザーのポケットに両手を突っ込んで、同じく寒さに凍えている凪の姿。
西村 凪
西村 凪
久しぶり。
……今日は、謝りに来た
木下 ひより
木下 ひより
……謝るなんて、そんな!
私の方こそ、
凪とは、凪の宣言通り、私が清瀬くんとお試しでお付き合いを始めてから会うことがなくなって。

あー、避けられているんだなぁって。
一度ちゃんと話そう!って、凪の家を訪ねたこともあったけど、結局、会えないまま無念の帰宅。

それっきりになっていた。
西村 凪
西村 凪
……違ったんだ
木下 ひより
木下 ひより
え?
西村 凪
西村 凪
ずーっと、ひよりのことが好きで。
ひよりに振り向いて欲しくて、
頑張ってきたんだ、俺
木下 ひより
木下 ひより
……凪、
西村 凪
西村 凪
だけど、そうじゃなかった
西村 凪
西村 凪
ひよりに対するこの気持ちは、
"憧れ"だったんだって、
気づかせてくれたやつがいるんだ
凪が、こんなに一生懸命に何かを伝えようとしてくれているのは、きっと出会ってから初めて。

それほど、莉子ちゃんは凪の中に大きな風を吹かせたんだね。
木下 ひより
木下 ひより
うん、知ってる。
莉子ちゃんでしょ!
西村 凪
西村 凪
……っ、な!なんで!?
木下 ひより
木下 ひより
ごめん、風の噂で聞いた。
嬉しいよ、私!
凪が本当の恋を見つけてくれて
西村 凪
西村 凪
……ごめん、今まで散々
ひよりひより言ってきたのに
木下 ひより
木下 ひより
やだな、謝らないでよ。
……頑張れ、凪!
西村 凪
西村 凪
おう!
ありがと、ひより。
ひよりもアイツのこと諦めんなよ!
木下 ひより
木下 ひより
え?
西村 凪
西村 凪
莉子の兄貴のこと、
好きなんだろ?
凪の言葉にドキッとしたのは、諦める決意をしたくせに、まだ私が清瀬くんを好きだから。

私には頑張る気力なんて残っていないけれど、ここで否定してしまったら、凪の頑張る気持ちまで削ぎとってしまいそうで……。

口元に笑みを作って"うん"と一度、力なく頷いた。
***

凪side
西村 凪
西村 凪
先輩、話があるんですけど
清瀬 律
清瀬 律
……あ、
とある日の昼休み。
たまたま見かけた莉子の兄貴を呼び止めた俺。
西村 凪
西村 凪
どーも。
ひよりがいつもお世話になってます
わざと、ひよりの幼なじみを前面に出して行く俺に、分かりやすく莉子の兄貴の顔が曇る。
清瀬 律
清瀬 律
いや、むしろ
俺の方が世話になったし
西村 凪
西村 凪
……あー、そっか。
1ヶ月のお試し終わったんだ
清瀬 律
清瀬 律
……うん。
ヒヨコ、バイトも辞めちゃってさ
そう言った莉子の兄貴の顔が、あんまりにも寂しそうで、見てるこっちまで胸が苦しくなる。

……自分の気持ちに気づいてない頃の、俺と同じ。
早く自覚しないと、誰かにひより持ってかれっぞ。それに、ひよりのこと幸せにしてくれなきゃ、俺が困る。

俺だけ幸せになったら、ひよりに申し訳が立たない。
西村 凪
西村 凪
2人が付き合ってないってことは、
先輩はひよりのこと、
好きにならなかったってことですよね?
清瀬 律
清瀬 律
……え、
西村 凪
西村 凪
……なら俺もそろそろ
本気出していいですよね?
俺、誰にも取られたくないんで
わざと煽るような言い方をして、気持ちを揺さぶる。目を見開いて言葉を失っている莉子の兄貴を残し、「それじゃ、また」とその場を後にした。

あーあ。この先、本当に俺が好きなのは莉子だって言っても、あのシスコンに信じてもらえないかもなぁ。

ま、その時は認めて貰えるまで頑張るしかない、かぁ。

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