ふわ、と抱きしめられていた腕が離れて、くるりと180度視界が回転する。
そこには、制服姿の清瀬くんがいて、自然と目が合う。
語尾になるにつれて声のサイズが控えめになっていく清瀬くんがおかしくて、笑みがこぼれる。
こんなの、嬉しくないはずがない。
私の知らないところで、私が清瀬くんの特別になっていたなんて、本当に奇跡が起きた。
根っからのシスコンで、莉子ちゃんにしか関心がなくて、恋なんて微塵も興味が無かったあの清瀬くんの本当の彼女になれる日が来るなんて。
宝くじが当たるより、隕石が落ちるより、ずっとずっとすごい確率だと思う。
***
〜 付き合って1ヶ月 〜
”ヒヨコ”から”ひより”呼びになって、もう1ヶ月が経つのに、私はまだ恥ずかしさから顔が見れない。
一緒にお昼ご飯を食べ終えて寛いでいる、この時間を改めて幸せに思う。
律くんの前で堂々とデート宣言する莉子ちゃんにヒヤリとする私。
……だけど、
「はい、これ!」と鍵を差し出すと、ヒラヒラ手を振りながら戻っていく莉子ちゃん。
少し照れたような律くんに、こっちまで恥ずかしくなる。
だけどやっぱり、律くんはウルトラシスコンに変わりはないみたい。
教室を出ていく莉子ちゃんを見ていたらしいクラスメイトがヒソヒソと噂するのが聞こえて、またヒヤリとする。
こんなの、律くんの耳に入ったら……
律くんに聞かれてバツが悪そうにするクラスメイトたち。
片手で私の肩を抱き寄せて、見せつけるように髪にキスを落とす。
かぁっと頬が熱を持って、口の中はカラカラ。
そんな私を見て満足げに笑った律くんに、私はもうされるがままだ。
だけど───。
イタズラに笑うシスコン男子律くんに恋を教えたのは私なんだって思ったら、ほんのちょっと優越感だったりして。
【E N D】
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。