第17話

お試し一緒に昼休み
6,405
2022/08/25 23:00
清瀬 律
清瀬 律
ヒヨコはさ、なんかやってみたい
恋人っぽいことってある?
木下 ひより
木下 ひより
恋人っぽいこと?
放課後デートから1週間。

バイト中、清瀬くんがそんな質問をなげかけてくるので、持っていたモップにギュッと力が入った。
木下 ひより
木下 ひより
ん〜〜、なんだろう
清瀬 律
清瀬 律
そんな深く考えなくていいよ
清瀬 律
清瀬 律
こう、パッと思いつくものない?
木下 ひより
木下 ひより
恋人っぽいこと……
あ、
清瀬 律
清瀬 律
ん?
木下 ひより
木下 ひより
お昼休み、一緒に過ごしたりとか
彼氏彼女がいる周りの子たちは、お昼休みを一緒に過ごしてることが多い気がして、こんな答えに辿りついた。
たわいもない話をしたり、お弁当を一緒に食べたり、ただダラダラ過ごしたり。
……そんな恋人たちの時間を本当はいつもちょっぴり羨ましく思っていた。
清瀬 律
清瀬 律
なるほど、昼休みな〜。
いいじゃん、それ
木下 ひより
木下 ひより
え?
清瀬 律
清瀬 律
明日、昼休み一緒に過ごしてみる?
***

朝からキッチンに立ち、初めて妹たち以外のためにお弁当を作った。

だって、今日は大好きな清瀬くんと一緒にお昼休みを過ごせることになったから。

……ん?でも、お弁当を作るって約束をしたわけじゃないし。
木下 ひより
木下 ひより
……食べてくれるかな?
張り切って作ったお弁当を見つめながら、ジワジワと不安な気持ちになりつつ、私は急いで家を出た。
***


───キーンコーンカーンコーン


迎えた昼休み。
お弁当をふたつ抱えて、清瀬くんを探す……けど。
長谷川 あおば
長谷川 あおば
あれ?今日はお昼、
清瀬くんと食べるんじゃないの?
木下 ひより
木下 ひより
……そのつもりだったんだけど
長谷川 あおば
長谷川 あおば
清瀬くん……行っちゃったね
お昼休みを告げるチャイムと同時に、教室を飛び出して行った清瀬くん。
きっと、向かう先は購買だろう。

「今日、お弁当作ってきたんだ」と、勇気がなくて伝えられないままだった私が悪いけど。

……せっかく作ったのに、どうしようかな。
***

───10分後。
清瀬 律
清瀬 律
ごめんヒヨコ!
購買混んでて、遅くなった!
急いできてくれたのだろう、肩で息をする清瀬くんが教室に戻ってくる。
木下 ひより
木下 ひより
あ……ううん!
平気だよ
清瀬 律
清瀬 律
……?
それ、ヒヨコの弁当?
木下 ひより
木下 ひより
……っ、これ、実は今日
清瀬くんの分もお弁当作ったんだけど
伝えそびれちゃって
木下 ひより
木下 ひより
前もって伝えてたら良かったんだけど。
あ、でも私が食べるから気にしないで…
清瀬 律
清瀬 律
……ごめん、
ちょっと待ってて!
木下 ひより
木下 ひより
え、
言い終わるなり、近くの席のクラスメイトに声をかけた清瀬くんが、売店から買ってきたばかりのパンを差し出す。

クラスメイトはそれを「サンキュー」と受け取ってしまった。
清瀬 律
清瀬 律
待たせてごめん!
俺、その弁当もらっていい?
木下 ひより
木下 ひより
え、でも……いいの?
てか、こ、声大きい……!
みんなに変に思われちゃうよ
清瀬 律
清瀬 律
むしろ、
俺はヒヨコが作ってくれた
弁当が食べたい
清瀬 律
清瀬 律
それに、
別にみんなにどう思われても
俺は気にしないけど?
木下 ひより
木下 ひより
で、でも……
お試しの関係だし、それに、
クラスメイト
なに?
律と木下って付き合ってんの?
クラスメイト
うわ!しかも手作り弁当!?
木下やる〜
───!!

お試しで付き合ってもらっている1ヶ月間。
清瀬くんの重荷にならないためにも、あまり出しゃばらないでおこうと決めていたのに。

……お弁当の存在を伝え忘れた焦りから、つい教室でお弁当の話をしてしまったことを後悔する。
木下 ひより
木下 ひより
 ……あ、違!これは、
清瀬 律
清瀬 律
そう見えんなら
そうなんじゃない?
咄嗟に否定しかけた私の小さな声は、堂々とした清瀬くんの声とイタズラな笑顔に掻き消されてしまった。

同時に湧き上がる女子たちの黄色い声と、男子たちのヒューヒューと冷やかす声に私は耳まで真っ赤。
清瀬 律
清瀬 律
ほら、ヒヨコ。早く中庭行こうぜ。
どんな弁当かすげぇ楽しみ
木下 ひより
木下 ひより
う、うん!
だけどそれ以上に、清瀬くんが私との関係を、例えお試しだとしても否定しないでくれたことがすごく嬉しい。

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