放課後デートから1週間。
バイト中、清瀬くんがそんな質問をなげかけてくるので、持っていたモップにギュッと力が入った。
彼氏彼女がいる周りの子たちは、お昼休みを一緒に過ごしてることが多い気がして、こんな答えに辿りついた。
たわいもない話をしたり、お弁当を一緒に食べたり、ただダラダラ過ごしたり。
……そんな恋人たちの時間を本当はいつもちょっぴり羨ましく思っていた。
***
朝からキッチンに立ち、初めて妹たち以外のためにお弁当を作った。
だって、今日は大好きな清瀬くんと一緒にお昼休みを過ごせることになったから。
……ん?でも、お弁当を作るって約束をしたわけじゃないし。
張り切って作ったお弁当を見つめながら、ジワジワと不安な気持ちになりつつ、私は急いで家を出た。
***
───キーンコーンカーンコーン
迎えた昼休み。
お弁当をふたつ抱えて、清瀬くんを探す……けど。
お昼休みを告げるチャイムと同時に、教室を飛び出して行った清瀬くん。
きっと、向かう先は購買だろう。
「今日、お弁当作ってきたんだ」と、勇気がなくて伝えられないままだった私が悪いけど。
……せっかく作ったのに、どうしようかな。
***
───10分後。
急いできてくれたのだろう、肩で息をする清瀬くんが教室に戻ってくる。
言い終わるなり、近くの席のクラスメイトに声をかけた清瀬くんが、売店から買ってきたばかりのパンを差し出す。
クラスメイトはそれを「サンキュー」と受け取ってしまった。
───!!
お試しで付き合ってもらっている1ヶ月間。
清瀬くんの重荷にならないためにも、あまり出しゃばらないでおこうと決めていたのに。
……お弁当の存在を伝え忘れた焦りから、つい教室でお弁当の話をしてしまったことを後悔する。
咄嗟に否定しかけた私の小さな声は、堂々とした清瀬くんの声とイタズラな笑顔に掻き消されてしまった。
同時に湧き上がる女子たちの黄色い声と、男子たちのヒューヒューと冷やかす声に私は耳まで真っ赤。
だけどそれ以上に、清瀬くんが私との関係を、例えお試しだとしても否定しないでくれたことがすごく嬉しい。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。