───放課後。
多分、ひよりの元へ向かっているであろう先輩を呼び止めた俺は、莉子と付き合っていることを素直に打ち明けた。
【2人が付き合ってないってことは、先輩はひよりのこと、好きにならなかったってことですよね?】
ついこの間の挑発的なシーンを思い出して、今すぐ目の前で怪訝そうに俺を見ている男の記憶からも抹消したいと思った。
とはいえ、ここで引く訳には行かない。
俺だって本気なんだってこと、ちゃんと分かってもらわないと先に進めないんだ。
めでたく、ひよりと莉子の兄貴、清瀬先輩が付き合うことになったと莉子から報告を受けたのが昨日。
俺は、このタイミングを待っていた。
ひよりと想いが通じ合い、自分も彼女を持つ身になった清瀬先輩なら、俺の言葉に耳を傾けてくれるんじゃないかと思っていたから。
誰だ、今ズルいって言ったやつ。
これだけ聞けば、弱ってる時にそばに居てくれた莉子にふらついただけの男みたいに聞こえるだろうか。
だけど、莉子の仕草や表情に何度も胸が高鳴って。
ふとした瞬間に、"こんな時、アイツがいてくれたら"って何度も思った。
同時に、アイツと"青春する"のが自分以外だと思うと、胸がモヤついて、落ち着かなかった。
やべ、見つかった。
……ってのが素直な俺の心の声。
だけど、莉子がいると真面目な話しづらいんだよ。
俺がすげぇ莉子のこと好きとか恥ずかしくて、本人には聞かれたくないし。
清瀬先輩の後ろからひょこっと顔を出したひよりに、清瀬先輩がハッとした顔で振り向いた。
両手を胸の前で小さくパチパチ鳴らしながら、目を輝かせるひより。
素直に喜ぶひよりを見て、清瀬先輩の顔にも笑みが浮かんだ。
照れるひよりの頭をポンポンと数回撫で、"きっと同じだろ?"と、そのまま俺に視線を向ける。
そこにはさっきまでの険しい表情はない。
4人で笑い合う。
さっきまでの緊張感はない。
きっとこれから、莉子と2人で……いや、清瀬先輩やひよりと4人でたくさん思い出を作っていくんだろう。
まずは先輩との距離を縮めていかないと。
いっそ、律兄ちゃんって呼んだら怒られるかな?
【END】
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!