───今日もかっこいいなぁ。
体育の授業が始まる前。
清瀬くんの手首のリストバントを見て、思わず「可愛い」と呟いた私に、「球技大会、これ付けて頑張ろうと思ってんだ!」と笑った顔を思い出す。
たったそれだけでキュン、と小さく心臓が音を立てるのは、もうこれで何回目だろう。
体育の授業中。
男子がバスケの試合をしているのを、女子は座って見学中。
隣であおばがぷくーとほっぺたをふくらませている。
……私と清瀬くんの"お試し"が始まって以来、凪は宣言通り、私との関係にスパッと線を引いてしまった。
バイトも何も言わず辞めちゃうし。
たまに家の前で会っても、目すら合わせてくれないし。
……さすがに、大事な幼なじみにこんな態度を取られ続けるのは辛いものがある。
***
球技大会当日。
これから各競技に分かれて、順番に試合が開催されるという時、
私を呼んだ清瀬くんが、ヒョイッと何かを投げるもんだから、私は慌てて両手を広げた。
あのシスコン清瀬くんが、清瀬くんの意思で私に自分とおそろいのリストバンドをプレゼントしてくれたなんて……!
無理、嬉しくてフワフワして、このままどこか飛んでってしまいそう。
……早速、手首に付けてみる。
にやにやする頬を両手で包めば、じんわり熱が広がった。
***
────ピーーッと試合終了のホイッスルが鳴り響く。
私とあおばはバレーで惜しくも3年生に負けて2位。
残念だったね〜と話しながらも、楽しかったって気持ちでいっぱい。
そんな私の手首には、さっき清瀬くんからもらったリストバンド。来年は、優勝出来たらいいな。
試合を終えたばかりの私は、突然後ろから強く引っ張られて数歩後ずさる。
***
半ば引きずられるようにして、やっとの思いでたどり着いたバスケの試合会場。
そこは既に試合に集中している清瀬くんに向けられた、「キャーーー!!!」という女子たちの黄色い声でいっぱいだった。
体育の授業の時も思ってたけど、清瀬くんめっちゃ上手い……!!
ちゃんと最初から応援したかっなぁ。
いやでも、あんなの最初から見てたら心臓がときめきすぎて耐えられなかったかも。
清瀬くんの手から離れたバスケットボールが美しく弧を描いて、ゴールの中に吸い込まれていく。
その瞬間、世界から音が消え、まるでスローモーションで見ている気分だった。
思わず出た私の声が届いたなんて思えないけど……清瀬くんは、くるりと応援席を振り返り。
───目が合う。
私の姿を見つけて、リストバンドの腕を高く突き上げて笑ってくれる清瀬くんにキュン連鎖が止まらない。
……ずるいなぁ、私ばっかりこんなに好きで。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。