───────探偵事務所にて。
私はこっちの世界に来てからこちらの世界、この国についての歴史等を携帯やパソコンで色々調べてみた。
こちらの世界では簡単に過去の歴史について調べることが出来るが、元居た世界は歴史の授業すら無いほど、国の歴史を探るのはNGとされている。
否、歴史についての記述に関しては規制されているので、通常のやり方では簡単に探ることは出来ない。
それこそ、ハッキング仕掛けたり、複雑なルートで探らなければ行けない程に厳重だ。
シビュラシステムが支配してるも同然な国で必要なのは、シビュラシステムが完璧であると疑わず信じる国民。
だから余計な思想、思考、疑問、矛盾点を抱かせないためにシビュラにとって不都合な情報や知識は闇に隠され、なかったことにされる。
何より深く考えれば考えるほど、知れば知るほど色相が濁る。歴史も例外ではない。
結局、知的好奇心や知識に蓋をした者が幸せになれるような国だ。知らない方が幸せとはまさにこの事だろう。
槙島聖護が起こしたヘルメット事件の最初の一件……街のど真ん中での女性暴行事件で、いかに国民がストレスに弱く、思考停止しているか分かる。
物事を深く考えず、自分達で本質を見抜くことも無く、シビュラシステムと言う正体の分からない“神”に全てを委ね、従い続けた結果だ。
シビュラによる職業の適性診断の中で、私が最初に“監視官”と言う仕事を選んだのは、小さい頃からなりたかったから。
でもそれは、正義感からでも、シビュラの判断を信じていたからでも無い。ある事件をきっかけに、幼いながらもシビュラに対して懐疑的になっていたからだ。
私は監視官とは何か。シビュラとは何か知りたかった。
潜在犯である執行官になれば、色相の濁りなどそんなの関係ない。犯罪係数三百オーバーは気を付けないと行けないが。
調べた結果から分かるのは、決して簡単ではないが条件さえ揃えばこっちでも私の居た世界の物が作れるかもしれないと言う可能性。何せ、途中の歴史が違っても“同じ日本”。
私がいた世界の発明者や指導者等がこちらの世界で生まれていなくても、国内で必要な材料を集め、技術を磨き、やり方さえ分かれば同じ事……似たような事が出来る可能性がある。
これはあくまで可能性の話だ。
いや、むしろ人の精神に干渉するヒプノシスマイクや、仮想世界での冒険を可能にしたゲームすら創れているのだから既に似た技術があるのも否めない。
※仮想世界はヒプマイゲームイベントにて。
正直、私はシビュラと相性が悪い。
だからこそ、こちらの世界の方が生きやすいと感じてしまう。でも、だからといってこのままで良いのだろうか。そんな時、携帯が鳴った。
……左馬刻からの電話だ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。