病院内にある受付前の椅子に座って暫くすると「あなた」と、名前を呼ばれる。
顔を上げると、ギノと雛河君似の男性と、白衣を着た長髪の医師がこちらへ歩いてくる。
私が視線をギノの隣にいた男性二人に移すと、二人が自己紹介を始め、ギノが観音坂さんの家に居候していることを知る。他にもつい先程、診察室で三人が話をする際、観音坂さんが私についてギノに聞き、ギノが簡単に二人に私の話をしたらしい。なので、二人は私の名前を知っていた。
神宮寺医師に聞かれ、私は苦笑いしながら正直に答えるか誤魔化すか悩んだ。
悩んだ結果私は正直に話すことにした。
神宮寺医師も丁度小休憩だったらしく、快く了承してくれた。なるべく人気の無い場所へ移動した後、私は自分が横浜で探偵をしているのも含め、事のいきさつを話した。
ギノに関しては「お前そんなことしてるのか」と目を見開いていた。
私は依頼人が誰かはあえて話していなかった為、神宮寺医師の口から左馬刻の名前が出た瞬間「左馬刻を知ってるんですか?」と思わず口が開いてしまった。
依頼人がその左馬刻……と言うか、正式な依頼人が銃兎であることや、左馬刻達との出会いで助けられ、探偵になったことを私は話した。すると、神宮寺医師も自分達と左馬刻達との関係を喜んで教えてくれた。
こうして、神宮寺医師は調査協力に応じ、私とギノ、観音坂さんは病院を後にした。
病院から離れ、途中までギノや観音坂さん達と帰る事になった私は、これからどうするかを考えて居た。
その最中、ギノの視線に気が付く。
咄嗟に顔を隠すように逸らすと、ギノは「唐之杜を思い出す」と呟く。
そんな話をしている間、ギノの隣を歩く観音坂さんの気まずそうな空気を察し、「悪いな観音坂さん。久しぶりに“友人”と会って盛り上がってしまった」と声を掛けた。
道の端で立ち止まって連絡先を交換しながら雑に聞くと、ギノは軽く咳払いをして「お前の助手としてでも構わない。俺も事務所で働き、寝泊まりしても良いか?」と提案してくる。
ギノの提案に私と観音坂さんは「えっ」と一瞬驚く。
“やるべき事”とは、恐らく元の世界への帰り方を探らねばならないと言う事だろう。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。