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2021/07/29

第3話

第2話︰体温
_____あなたの名字あなたの下の名前の自宅︰居間リビング
国木田独歩
国木田独歩
まぁ、座れ。
あなた
……………………はい。
家の中に入ったのは良いものの_____何が起こったのかが、今一つ分からないまま立ち尽くすだけの私に、彼は長椅子ソファに座る様促した。

長椅子ソファ掛布カバーは、ボロボロに破け、綿が飛び出している部分も有る。

それもこれも_____全部、"或の男"の所為。
あなた
それで_____貴方は誰なんですか………………?
長椅子ソファから飛び出したままの綿を指先で押し込みながら、おずおずと尋ねる。

_____随分と不躾で、回りくどい聞き方だったかも知れないが_____
国木田独歩
国木田独歩
まぁ、そうなるか。
あなた
…………………………………?
彼は一瞬、躊躇う様に目線を泳がせ、しかしその後直ぐに私と目を合わせた。

ぶつかり合う視線。
国木田独歩
国木田独歩
君はあなたの名字あなたの下の名前さん_____で、間違いないな?
あなた
え、何で……………?_____
真逆。

おかしい。

彼のとの面識は一度も無かった。

いや、でも_____
国木田独歩
国木田独歩
聞け。
あなた
ッ………………!
混乱する私と相対して、彼は落ち着いた声音のままだった。

私よりも幾分か年上で、長身の彼が放つ威圧感は依然として残っていたが_____
国木田独歩
国木田独歩
俺は国木田独歩という。此処_____ヨコハマに点在する、"武装探偵社"という組織から訪ねた次第だ。
国木田独歩_____と言ったか_____は、淡々と言葉を紡ぐ。
国木田独歩
国木田独歩
俺が此処に来た理由_____それは君の"母からの依頼"だ。
"母からの依頼"_____という言葉を聞いて、自分の眉根がピクリと動いたのを感じる。
あなた
"母"から、ですか………………!?
国木田独歩
国木田独歩
嗚呼…………?
あなた
何で、そんな筈は_____母は病気で、もう既に…………………!
国木田独歩
国木田独歩
一つ言っておくが、君の母は死んでいない。
あなた
ッ……………………好い加減に_____
二年前の出来事だった。

_____母が死んだ。

病院寝台ベッドで、冷たくなった母に縋る様に泣き付いた私を、父は容赦無く打った。

頬が真っ赤に腫れ上がって、でも、それでも涙は止めどなく溢れて続けた。

痛みでも何でも無い。

大きな哀しみが、私の感情と正常な精神を蝕んでいたのだ。

そして、また父との地獄の様な日々が続いたのだった_____

なのに、それなのに、如何して今あったばかりの人間に、死んだ筈の母からの依頼等_____否、母の事に触れられなければならぬのか。

冗談じゃない。

誰が私の地獄の様な日々と苦痛を清算出来ようか。

それはきっと、母しかいない。

けれど、その母ももういないのだ。

私の知らない、何処か遠い所へ。

私と厄災を遺して逝ってしまった。

母が生きているだなんて、一番聞きたくない嘘なのに。

そんな私の心情に気が付きもしない、この男が心底恨めしい。

人の心に土足で踏み込む様な人間が、大嫌いで疎ましくて、それでいて自分が惨めなのを態々思い出させるのが、何よりも哀しく虚しかった。
あなた
_____もう、良いです。
国木田独歩
国木田独歩
おい、待て。何処に行く!
行き場の無い、憤りと怒りで私は部屋を出ようと、扉へ向かう。

ふらふらと、鉛を着けた様に重くなった足を前へ前へと運ぶが、大して進んでいないのだろう。

まるで、私の人生の様だ_____そう思った。

背後で、誰かの声が聞こえた気がしたが、もう何も分からない。

ぼやけた視界の隅に、今は亡き母の姿を捉えた様な気がして、自分が泣いている事に気が付く。
あなた
ッ………………ぅう"………お母、さん_____
ふと、何か暖かいものに身を包まれる感覚がして、何とは無しに振り返る。

抱き締められている_____そう気付くのに、それ程時間は要さなかった。
あなた
おじ、さん………………?
国木田独歩
国木田独歩
おじさんではない。歳もそれ程離れておらんだろ。
_____"お兄さん……………否、国木田さんと呼べ"_____

そうぶっきらぼうに言った_____国木田さんは、真っ直ぐな瞳で私を見据えていた。

ドライな口調とは裏腹に、私を腕の中で抱き留めている、国木田さんの温かな体温に私は無意識に微睡む。

"母が生きている"という言葉に、先程まで激高していたというのに、私は国木田さんの腕を振り解く事が出来なかった。

否、自分の意思で振り解こうとしなかった。

きっと、悪い人なんかじゃない。

久し振りに感じた人の温もりに、私は目蓋をそっと閉じた_____