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2021/07/29

第4話

第3話︰形見
_____あなたの名字あなたの下の名前の自宅︰居間リビング
あなた
_____ん…………。
何時の間に、眠ってしまっていたのだろうか。

あれ?

私、掛け布団ブランケットなんて、掛けて寝たんだっけ?

しかも、長椅子ソファで寝るなんて_____

ぼんやりと靄が掛かった様な意識のまま、眼球を動かして、辺りを見回す。

視界に入ったのは、すらりと伸びた足だった。

頭上から、声が聞こえてくる。
国木田独歩
国木田独歩
目が覚めたか。気分はどうだ?
あなた
あ………………_____
そうだ。

私、あのまま_____

途端に気恥ずかしくなる。

誰かに、あんな風に甘えたのは、何時振りだったのだろうか。

掛け時計を見れば、時刻はもう八時と半刻。

思わず、起き上がろうとした私を、彼_____国木田さんは片手で制した。
国木田独歩
国木田独歩
冷房クーラーを効かせている。あまり身体が冷えてもいかんだろう。もう少し、寝ていろ。
あなた
………………………はい。
国木田さんは、私が寝転んでいる長椅子ソファの空いている場所_____私の頭側の位置に、腰を下ろした。

私は胎児の様な姿勢で寝る事が多いので、国木田さん一人くらいは座れたのだろう。

長椅子ソファの脚が軋む音が、微かに聴こえた。
国木田独歩
国木田独歩
先刻は済まなかった。言葉足らずだった事を、謝らせてくれ。
あなた
いえ、その…………私の方こそ_____
顔に血液が集まるのを、熱を通して感じる。

きっと、茹で蛸の様に真っ赤な顔をしているんだろう。

国木田さんは、眉根を下げて、少しだけ微笑んだ。

顔を隠そうと動いて、落ちてきた前髪を国木田さんの長い指が掬う。
国木田独歩
国木田独歩
_____君のお母さんの遺書が見付かったそうだ。俺が此処にいる理由も、それだ。
あなた
え………?でも、先刻"母は死んでいない"と_____
戸惑う私に、国木田さんは"無理も無い"といった表情を浮かべた。
国木田独歩
国木田独歩
正確に言えば、"君の母の異能力はこの世に残っている"という事になる。
あなた
異能……力?
国木田独歩
国木田独歩
君のお母さんは、何か不思議な力を使う事は無かったか?
お母さんの不思議な力。

不思議な……力_____
あなた
あ_____蝶々。
思い当たる節があった。

昔、私が転んで膝を擦り剥いた時。

父に殴られ、痣が出来た時。

何時も、母が治してくれていた。

_____不思議な"蝶"を使って。
国木田独歩
国木田独歩
矢張り、知っていたか。
あなた
あの、私_____
国木田独歩
国木田独歩
君の母が操っていた"蝶"は、本来、我々が異能力と呼んでいる物だ。誰しもが持ち得る力では無い。
あなた
異能力………………。
母からは_____"この蝶が、きっと貴方を護ってくれるわ"_____と、そうよく言われていた。

母が………死んだあの日も、あの柔らかな蝶が撒く鱗粉の甘い香りが漂っていた気がする。
国木田独歩
国木田独歩
そうだ。そして、君の母の"治癒の蝶"_____《八本脚の蝶》_____は、既に君に継承されている。
_____君の母が死んだあの日から。

国木田さんはそう言った。
あなた
私に……………お母さんの異能力が_____
国木田独歩
国木田独歩
それが、君の母の"最期の形見"なのだろう。遺書にも、そう記されてあった。
自分の掌を見てみる。

一番に私が感じたのは、"懐かしさ"だった。

母が死んでから、それから私は独りでずっと耐えていた。

死ぬ事も考えたけれど、母がくれたこの身体を簡単に傷付ける事は、私にはとても無理な話だったのだ。

でも、今は_____そして、これからは違う。

母がくれた、大切な力。

自分を、誰かを救う"蝶"の力。
あなた
……………………有難う、御座います。私の事、母の事を教えてくれて。
国木田独歩
国木田独歩
_____いや、気にするな。
泣きそうになって、掛け布団ブランケットを顔が半分隠れるくらいまで持ち上げる。

掛け布団と長椅子ソファの間を満たす、暖かい空気がふわりと顔に掛かって、微かな幸福感を憶えた。
国木田独歩
国木田独歩
もう一つ…………もう一つだけ、君に話しておきたい_____いや、話さなければいけない事がある。
あなた
…………………………………?
極めて落ち着いた声音で話す国木田さんを、掛け布団ブランケットに顔を包んだまま見上げる。

そこには、もう穏やかな顔をした彼はいなかった。

眼鏡越しの鋭い眼が、長椅子ソファの向かいの壁をジッと睨んでいた。
国木田独歩
国木田独歩
君の……………"お父さんの話"なんだ。
背筋が凍る。

先刻まで身体を包んでいた幸福な暖かさは、今はもう、蒸し暑く不快な物へと変わっていた。

_____"お父さん"_____

聞きたくない。

だけど、耳を塞ぐ事も、声を上げる事も出来なかった。

国木田さんが言葉を紡ごうと口を開くのが、鈍間スローモーションの様に見えていた_____