第9話

♯8
3,359
2021/06/10 12:21
『おっと、話がズレたね。次は緑谷君らしいよ。』


「えっ、ぼ、僕?」


天鬼がボールを手渡すと、緑谷は顔を真っ赤にしながら慌てていた。


「美女にボール手渡し……羨ましいぜ…!」

それを見ていた峰田がグーサインをかましてきたので、天鬼は峰田の脳天にチョップを入れた。





緑谷が円の中に入るが、緊張しているようで、中々投げない。

すると、隣にいた飯田がボソリと呟く。


「緑谷君はこのままだとまずいぞ…?」

それもそのはず、緑谷は個性把握テストでまだ1回も個性を使っていないからだ。


個性アリの人間に無個性の人間が勝負を挑んでも、相手が戦闘向きの個性であれば、勝てるわけが無い。


その点において、緑谷は個性を使うことがなく、大幅に遅れをとっている。


「ったりめーだ!!無個性の雑魚だぞ!!」


『……無個性?』


「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」


「は?」


『(無個性だったらほぼ百の確率で入試には落ちてる。おかしいよな…。)』


そう思った時、緑谷が投げる体制になった。
































しかし。



緑谷の投げたボールは全くと言っていいほど飛ばず、出た記録は──





「46m」

相澤先生が告げる。


「今、確かに使おうって……」

緑谷は今にも泣き出しそうな顔だ。


「個性を消した。つくづくあの入試は合理性に欠くよ。お前みたいな奴も入学できてしまう。」


消した。


『(個性…か。)』

「消した……あのゴーグル…そうか!!」


緑谷が言うなれば、相澤先生はヒーロー名をイレイザー・ヘッドというらしい。

個性は抹消。見たものの個性を消すことができるらしい。

便利だと天鬼は思った。


「イレイザー?俺知らない。」

「名前だけは見たことある!アングラ系ヒーローだよ!」


『(アングラ系って……何だ?)』


「見たところ個性を制御出来ないんだろう?また"行動不能"になって誰かに助けて貰うつもりでいたか?」

「そっ…そんなつもりじゃ…!」

『ハァ……話が長い。』


「どんなつもりでも、周りはそうせざるをえなくなるって話だ。昔、暑苦しいヒーローが大災害から1人で1000人以上を救い出すという伝説を創った。」


「同じ蛮勇でも、お前のは1人を救けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久、お前の力じゃヒーローになれないよ。」

相澤先生は長々と話した後に緑谷の個性を戻し、もう一度やれと催促した。

緑谷は再び円の中に立ち、何かをブツブツと呟き始めた。


『やっとヒーローらしいぶっ飛んだ記録が出そうだね。ニコ』

天鬼は小さく言い、緑谷へ視線を向けた。


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