全員がモニターに集中しているそのとき、天鬼の耳には微かに鴉の声が聞こえた。
『!!』
周りからしたらただの鴉だと思うかもしれないが、天鬼にはその鳴き声がミカゲのものだと分かった。
伊達に前世からの付き合いなのだ。
『オールマイト、少し外します。』
「え、ああ、うん……。」
天鬼はそう言い捨てて、モニタールームを出た。
「………。」
そんな天鬼を、轟はじっと見つめていた。
『……ミカゲ?どうしたの。』
外に出てみれば、やはり天鬼の鎹鴉のミカゲが空を旋回していた。
「あなた!!御館様カラ手紙ダァ!!」
よく見れば、ミカゲの足には紙が結ばれている。
『御館様から…?』
ミカゲはゆっくりと降りてきて、天鬼の肩に留まった。
『ありがとう。』
ミカゲの足から手紙を取り、開けば、短くこう書かれていた。
"ヒーローに協力をすることになった。
その為、ヒーローと鬼殺隊参加の会議を行う。それにあなたも参加して欲しい。
返事を待っているよ。
産屋敷耀哉"
『ヒーローと手を組む…!?』
天鬼は驚いた。まさかあの御館様が、ヒーローとの協力を許可するなんて、と。
ミカゲによれば、御館様は詳しい内容を話したいので、今日の夜に屋敷に来て欲しいとの事だった。
『(鬼殺隊員のほぼ全員がヒーロー嫌いなのを誰よりも知っている御館様が……。)』
天鬼は動揺を隠せなかったが、ミカゲに礼を言い、その手紙の裏に素早く「参加する」と書いた。
『じゃあミカゲ、お願いね。』
「カァァァ!!モチロンダァ!」
ミカゲは再び空に飛び立った。
天鬼はミカゲが見えなくなった頃に、モニタールームに戻って行った。
音もなく部屋に戻れば、爆豪対緑谷の訓練は終わってしまっていて、そこにはボロボロになった緑谷が搬送されている画が映っていた。
『……なんでこんなボロボロなんだ…。』
天鬼はふと、相澤先生の言葉を思い出した。
"個性が身体に合っていない。"
確かに、個性把握テストでも、指が紫色に変色し、腫れ上がっていた。
まだ個性を使いこなせていないのだ。
では、何故まだ使いこなせていないのか。
個性が突然発現した、としか言いようが無かった。
以前に爆豪が個性把握テストで「無個性」だと言っていた。
なら、中学卒業から雄英入学までに個性が発現したのだが、まだ使いこなせない。
そういう解釈でいいだろうと天鬼は思った。
一方、爆豪は緑谷が搬送されている姿を複雑な顔で見ていた。
彼にしては、やけに静かで、天鬼は何かがあったのだと察した。
この訓練では、緑谷チーム──ヒーロー側──の勝利だったようだ。
だが、別のカメラでは、核にペタリとくっついて、顔色が優れない麗日と、なぜか落ち込んでいる飯田がいた。
『(初戦にしては派手すぎじゃないか…?)』
今にも崩れそうな建物を見て、天鬼は不安になっていた。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!