第50話

36話 淡い記憶
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2023/03/07 11:49
オフィサー
はぁ……低気圧かしら?
エージェント
んなわけないだろ……クソっ、頭がいてぇ……
アルマ
…………?
周りには、頭痛を訴える者が沢山いた。
全員の体調が優れなさそうで、私も例外ではなかった。

ズキズキと痛んで、起床時からずっとこの調子だ。
なんでこんなに頭が痛いのかな……エンケファリンを少し飲んでもずっとこうだった。

昨日起きたことなのか、夢で起きたことか知らないけど……
曖昧な記憶だけがモヤモヤと残る。
アルマ
( でも、夢では無いのかな……? )
痛みとは違った傷み。
何かが酷く傷んで、心を侵食するかのような。

そんな中で大きな影を見た時に、誰かに呼ばれた気がした。

そこで夢は覚めた。
他にも見たような気がするけど、思い出せない。

なにもかもが中途半端に脳に刻まれている。











''いつもの場所'' に着いたところで、''いつもの3人'' と合う。
キティ
あ、アルマ……おはよう
アルマ
おはようキティ……皆んなも頭痛が?
いつものような明るさはなく、他と同様に気分が悪そうだった。
左肩を押さえて、横にいたアシェルとロバートに訴えるように言う。

アシェルもロバートも、しかめっ面でいた。
ロバート
頭痛が……まったく、酷い気分だ。
アシェル
…………
不機嫌そうに呟くロバートに、目を伏せたままのアシェル。
キティが自身の左肩を押さえながら。私に言ってくる。
キティ
朝から左肩が痛いの、肩凝りかなぁ……?
アルマ
そう……?
ここ三日間は動き回ってたような……












そこでキティがキョトンとする。
キティ
え? 何言ってるのアルマ、今日は二日目だよ。
アルマ
…………
アルマ
──ぇ?
二日目……? いや、そんなはずがない。
たしかに三日目とはずだ、だって…………























アルマ
……ごめん、ちょっと寝ぼけてるのかも
キティ
あはは、まだ二日目なのにもう時差ボケ?
キティ
この会社にはカレンダーが無いからって、
さすがに二日目と三日目は間違えないよ〜笑
アルマ
……そうだね
おかしいな、たしかに三日目……だって、ほら……
……おかしいな、上手く昨日のことが思い出せない。

もしかしたら、夢の中だったのか……?
いや、でも…………

……キティの言う通りなのかもしれない、
ここの日数を確認できるもとがない以上、私の勘違いなのかもしれない。

たしかに、ここ数日間は慣れないアブノーマリティの作業で、
疲労がかなり溜まっていた、そのせいで嫌な夢を見たんだ、きっと。
ロバート
おい、さっさと食堂行かないと、席が埋まるぞ。
キティ
頭痛くて食欲無いんだけど〜
ロバートが食堂に顔を向けると、キティが唇を尖らせる。
それもそうだな……温かい物でも食べれば、頭痛が治るかもしれない。

それに皆んなが頭が痛いのなら、他の人もそう考えるはずだ。
早めに行かないと、温かい物が売り切れてしまう。

指摘したロバートに、キティと向かう。

















アシェル
……すまん、俺は別でいいか?
アルマ
アシェル、どうかしたの?
アシェル
いや……
アシェル
……忘れ物だ、先に行っててくれ
アルマ
? 分かった……
アシェルが気まずそうにそう言い、首を傾げる。

頭痛が酷いのかな……私が心配そうにしていると、
キティが「早く〜!」と急かしたため、アシェルに一言告げてその場を去った。

アシェルの表情は、さっき会った時からずっと苦痛で歪んでいた。
アシェル
──くそっ、なんなんだ一体……!
人通りの少ない廊下で、壁にもたれ掛かる。
頭がズキズキと痛い、今にもぱっくりと二つに割れそうだ。

それに酷く気持ちが悪い。










──アルマたちは、あの惨劇を覚えていないのか?

不気味に笑みを浮かべて互いに斬りつけ合い、
絶望した顔で発狂したり首をへし折ったり。

''昨日'' 見た、血に汚れた光景と断末魔が、脳と耳に再生される。
アシェル
( なんであいつらは覚えていないんだ……? )
いや──恐らく、'記憶が無くなるというよりかは……





…… ''時間が巻き戻されてる'' んだろうな。

──以前もらったエンケファリンには手を付けず、しまっている。
ただ昨日はよくよく観察してみようと、引き戸から出してそのままにしていたはず。

……なのに、出しっぱなしにしておいたはずのエンケファリンは、
今朝確認して、ちゃんと引き戸にしまわれていた。

昨日したはずのことも、全て ''リセット'' されている。
地獄絵図が、記憶から引き剥がせない。

''内臓や死体自体は見慣れた'' が、実際に目の前でやられる所は、
いつまで経っても見慣れないものだ。気分が悪くなって、目を瞑る。

誰かに見られたら困るが、今は少しでも安息を取らないと戻しそうだ……
はあ……少し落ち着いてき──


























ライフ
気分でもわりぃの?
アシェル
うわっ!?
目の前に、逆さになった人の顔が出る。

ギョッとして壁に張り付いてしまう、声を掛けてきた人を、
クスッと笑って「よっ」と身軽に飛び降りてくる。

て、天井の障害物に捕まって逆さに……?
どんだけ身体能力が高いんだ、この人…………
その人はこちらを向くなり、黙ってじっと見つめてくる。

な、なんだ……というか、この人ってたしか、
''リセットしたはずの昨夜'' にアルマ達と一緒に食事をとっていたような……

たしか、''ライフ'' さんと言っていたような……?










すると、ライフさんは首を傾げて、ニヤッと笑う。
ライフ
あんたさ、エンケファリン、ちゃんと摂ってる?
アシェル
……ぇ…………
ライフ
ほらほらぁ〜、セフィラから渡された袋。
飲んだ? それとも注射? いや新人に注射はない感じ〜??
ハイテンションに話しかけてくるその人に、
なんと返せばいいのかまごついてしまう。
アシェル
あ、貴女は……
ライフ
だあっ、摂ってるかどうか聞きてぇだけだよ〜〜
んなもんパパっと答えられるだろ?
ズイズイと聞いてくるライフさん。
完全に追い詰められた俺は、一つの不味いことに気づいた。

待てよ……もし仮にこのリセットが、気づかれてはいけないものだとしたら、
ライフさんがスパイで、職員が記憶を持っているか確かめようと……?

いや、でもそれにエンケファリンの何が関係あるんだ……?
嘘をつくのは罪悪感が伴うが、もう慣れっこだ。
とりあえずその場しのぎで、唾を飲んで恐る恐る口を開く。
アシェル
……と、摂ってますよ。
ライフ
へぇ……
ライフ
……それじゃあ、エンケファリンを水に溶かしたら何色になんだ?
アシェル
は…………?
ライフ
だあ〜もう、融通が利かねえのなんの。
エンケファリンを水に溶かしたら何色って、はっきり言ってんだろ?
ライフ
誤魔化しても無駄だからな。
アシェル
っ…………
しまった、たしかにエンケファリンは粉状だった。
''何かの手掛かり'' のために重宝していたのがいけなかった。

溶かしてみるべきだった……と後悔していると、ライフさんが腕を組む。
ライフ
やぁっぱ摂ってねぇんだな。
ライフ
新人が何かに嗅ぎつけて詮索するのは、
個人の自由だからいいけどさぁ、
ライフ
あたしが困るんだなぁ。
強制的に精神診断始まったらどうすんだよって話。
アシェル
? ……待てよ、ってことは
ライフさんの発言の違和感を感じ、指摘してみる。












アシェル
──ライフさんも、エンケファリンを摂ってないのか?
ライフ
…………
ライフさんが黙ったままでいると、少ししてニカッと歯を覗かす。
そして俺のおでこに人差し指を当てて、顔を近づけて言う。
ライフ
あたしは名乗ってない。
のに名前を知ってるんだなあ?
アシェル
──っ!
ライフ
あっはは…… ''昨日'' の事、覚えてんな。
アルマっちが夕食ん時にライフの名前呼んだだろ?
俺が目を見開くと、顔は遠ざけたものの、
人差し指はおでこに当てたままだった。

今すぐにでもここを去りたかったが、何故か体が動かない。
アシェル
なっ……
ライフ
あっはは、人差し指をおでこに当てると立てなくなるんだって?
膝を曲げたままだから実質座ってるもんな。
アシェル
な……何が言いたいだ。










──俺は、ある事を脳に浮かべる。

もしかしたら、このライフさんって人も、
''あの人'' に配属された人なのか……

いや、そうであってほしい。
この人の性格上とても信用し難いが、あれを確認すればいいだけ。
アシェル
ライフさんは、その……
アシェル
…… ''例の人'' の、配属なのか?
ライフ
…………
頼む、そうであってくれと、心の中で願う。
もしこれで違かったら、最悪の場合密告されるかもしれない。

だとしたら身が危うい。
しかし、ライフさんは「んー」と表情を変えなかった。
ライフ
知らねぇな、残念ながら期待してる回答はできない。
ライフ
ただ、エンケファリンを摂ってないっつーことは、
この会社の反乱因子っことか? ん? 違う?
アシェル
……怪しくて摂って居ないだけだ、それは確かだ
ライフ
摂らないと後々から辛いことになるぞ〜
ライフ
……お前、名前は?
アシェル
……アシェルだ。
ライフ
ふぅ〜ん。
俺がふいと目を逸らすと、やっとライフさんがおでこから指を離してくれる。
自身のおでこをさすると、ライフさんは腕を組み直して静かに喋り出す。
ライフ
──この会社は、他の会社と契約しているらしい。
その契約内容に、相手の会社からある装置を貰ったらしいな。
アシェル
装置……?
ライフ
ああ、それが ''TT2プロトコル'' だ。
まぁめんどくせぇからリセット機能って呼んでるけど。
ライフ
エンケファリンで侵さてる人間はその影響を受けやすい。
リセットすれば記憶はねぇし、自制心が強い奴は良くて曖昧だ。
ライフ
記憶がリセットされれば、昨日の惨状なんて分からねぇだろ?
頭痛は続くが、それ以外はすこぶる良いんだ。
ライフ
''アシェルっち'' が他よりも気分が悪いってことは、
昨日のぐしゃぐしゃ死体ときを覚えてるからだろ? そのせいだよ。
アシェル
ライフさんは……エンケファリンを摂っていないのに、大丈夫なのか?
ライフ
んん……まぁ、そうだね。
少し目線を下げて、呟くように言う。












ライフ
──「マリア」に影響が出たらなぁ、
アシェル
? なんて言った……?
ライフ
いや、なんでもね。
ライフ
それよりも、何が企てても勧めはしねぇぞ。
それにライフは止める、こっちにまで害が出たら大変だしな。
ふっと口角を上げて笑うライフさん。
……敵ではないが、味方というわけでも無さそうだ。

お互い様子見と言ったところか。
張り付いていた壁から離れ、ぴんと立ち上がる。
ライフ
んーっと、なんだっけ。
アルマっちは〜……
ライフ
ん? お前のガールフレンド??
アシェル
ばっ……!!
俺が赤面して目を丸くすると、
ケラケラと愉快そうに笑うライフさん。
ライフ
あー違かった??
随分と仲良しだな〜とは思ってた・け・ど。
アシェル
…………
目線を下げて、眉を顰める。
アシェル
アルマは……違うんだ。
アシェル
ただ──似ていて。
ライフ
誰にだ?
アシェル
知り合いに似てるって話だ……だから、
そのせいかもな。気にかけてるのは。
ライフ
ふぅん。
ライフは複雑な事が大嫌いだから、深くは聞かねぇけど。
肩を一瞬上げて、その場を去るように一歩後退りする。
ライフ
ま、そのアルマっちがあのコニーを見張るのと同じく、
ライフちゃんはアシェルっちを監視してっからな。
ライフ
余計な事したらグーパンチだからな〜??
アシェル
……好きにしろ
俺の素っ気ない返事に、ライフさんが鼻で笑って、
そのまま一言も言わずにその場を去ってしまった。

一気に疲れが出て、その場にしゃがみ込む。
あの人と相手をしていると酷く疲れる…………





──どいしても、アルマの性格に笑顔を、重ねてしまう。
























アルマ
大丈夫……?






























──大丈夫か? アシェル。













アシェル
……どうしても、離れなきゃなんねぇの?
不安を感じて、小さい手でギュッと服の裾を握る。

俯いた俺に、ふっとその人は笑って頭にポンと手を乗せる。
俺より一回り大きな手で、目尻を下げて微笑みかけてくれる。

聞き慣れた、優しくて、かつ頼りになるような、
そんな声で優しく問いかけてくれる。
大丈夫だって、母さんと俺とは離れ離れになるけど……
うんと頑張って、いつかアシェルも ''巣'' に呼ぶからな?
アシェル
…………
……俺だって、出来る事ならお前の方を ''巣'' に入れたいよ。
でも母さんが聞いてくれないんだ。
我慢は一瞬だ、少なくとも ''裏路地'' の中でも
安全な場所にしておいたから。父さんと頑張れるな?
アシェル
……うん
小さい返事をすると、ふっと笑って、
しゃがみ込んだ姿勢をやめて、立ち上がる。

遠くの方から、母さんの呼ぶ声が聞こえる。
んじゃ、俺は行かないと。
……元気でな。
アシェル
…………
アシェル
……絶対、絶対また会えるよな?
……ああ、
アタッシュケースをギュッと握って、
顔はこちらに向けたまま、背を向けてくる。
家族を置き去りにするわけないだろ。
''兄ちゃん'' が迎えに行くからな
アシェル
……約束だからな!
おうよ!




























──あの眩しい笑顔が、嫌に脳にこびり付いて離れない。

俺が優柔不断なのは、全部、あの笑顔のせい……おかげだ。






作者です。

号泣しながらこの話を書いてました、どうしてくれるんですかプロムン!!(?????????????)

このチャプターはだいぶ過去に影響するので、覚えておいてください。
アルマ……オメェ達覚えてねぇのか……😭😭😭😭

私も未だにリセット機能の正式名称を覚えられません。
TTってあれしか出てこないんですよ。(やべ世代バレる)

だいぶアシェルの雲行きが怪しくなっていきましたね。
ふふふふ……ライフのモルモットがアシェルですか。美味しいねぇ。

てか年上だから敬語だったのに、ライフのことがわかった瞬間、
敬語外してせめてもの情けで「さん」付けするの良くないですか!!!????((((((((((((((

とりあえずこの調子じゃおわらねぇので
頑張ってサクサク続けます。リセットはほどほどに。

あと挿し絵は描けそうな場面が無かった(※山盛り)だったので付けてません。
ごめんなさい次こそちゃんと書きます//////////////////////////////////////




それでは。

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