風が身体を持ち上げて抵抗する。
空が近い。地面が遠い。
しかしこの様子だと直ぐに地面に打ち付けられることになるだろう。
そんな想像をして僕はフッと目を閉じた。
ーキーンコーンカーンコーン…
始業を知らせるチャイム。
本来なら教室に居なければならない時間に僕は立ち入り禁止の札を潜って屋上へと向かう。
先日、友人がここから落ちた。飛び降りだったと。
二階から変わり果てた彼の姿を目撃した先輩が言っていた。
「あまりにも酷い有様で、彼本人も苦しそうな表情だった。」
と。
最近ここらで連続殺人事件が起きていた事で警察が沢山来たらしい。
そのせいで学校が始まるのが遅れ、始まる頃には誰も彼の死を惜しむ人はいなかった。
恋人が出来て、部活も上手くいっていてつい先週県大会が決まったんだって、嬉しそうにそう笑顔で話していたのに。
何が不満だったのだろうか。僕も相談に乗ってやるべきだったのだろうか?
そんなこと考えたって仕方がない。事は全ておわってしまったのだから。
僕は屋上への扉を開いて歩を進める。
ー裸足で屋上の端で佇んでいる少女に向かって。
「ダメだよ。」
端的に、ハッキリとそう放った。
少女はゆっくりと振り返る。
何かを諦めた表情を浮かべる少女は飛び降りた友人の彼女だった。
「…怖くて飛び降りなんて出来ないの…。あの人はこの恐怖を乗り越えてここから落ちたのね…。」
そう言いながら淡い笑みを浮かべる少女。その笑みの奥に隠れた感情を感じ取って彼女の手首をこちら側に引き寄せる。
「こんなことしたって誰も幸せにはならない。」
彼女は僕を突き放す。
「わかってるわよ…そんなの…。でももうこんなの飛び降りるしかないじゃない…!」
彼女のその発言に僕は少々首を傾げる。
「違うよ。そうじゃない。」
僕はそう言うと真剣な眼差しを彼女に向ける。
「…何が違うのよ。」
重たい空気のまま僕が黙りこくっていると彼女は怪訝そうな顔を僕に向ける。
「だって…」
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。