第6話

5 [優斗side]
102
2018/11/15 13:05
あと一歩
あと一歩だけ前に出ていたら。




あと1秒
あと1秒だけ早かったら。




あと3㎝
あと3㎝だけ後ろだったら。








僕は







大切な人を、守りたいと思った人を、








二度も失わずに済んだのかもしれない。



         * * *


平田紗綾
……桐島、くん
桐島優斗
平田紗綾
あの…
桐島優斗
平田紗綾
桐島優斗
平田紗綾
無理には、話してもらえなくても…
桐島優斗
僕も…僕も、一瞬のことで、あまり覚えてないんだ…
ただ…宮元さんが、赤信号に気付かず横断歩道を渡ってしまって…それで…急にトラックが……うっ………
平田紗綾
……そう…
桐島優斗
僕の…せいだよ……本当にごめん………って謝っても仕方ないか…
平田紗綾
…………か…
桐島優斗
え?
平田紗綾
ばか!ばかばかばか!…っ…
桐島優斗
あの…平田さ…
平田紗綾
ばかじゃないの⁉あんた…私知ってるんだからね…?
桐島優斗
なに…を…
平田紗綾
真那はさ、本気であんたのことが好きで、見てりゃ分かるけど……
桐島優斗
平田紗綾
桐島くんだって分かってたでしょ?真那に好かれてるって、真那のことが好きなんだって…
だから余計こう思うの…
桐島優斗
平田紗綾
なんであと一歩がなかったの?あと1秒早ければ間に合ったんじゃないの?あと3㎝だけ後ろだったら助かったんじゃないの?
私だったら助けられる、私だったら身代りにでもなれる、私だったら真那をこんな、死ぬかもしれない状況になんてしないで済んだ…!!
桐島優斗
平田紗綾
それなのに…っ、真那の思いも葛藤も知らずにどうしてあの時、救急車が来たときあんな顔をしてられたの?
どうしてあんないつものすました表情でいられたの?
真那を助けられなかったのに?
桐島優斗
平田紗綾
そんな人に…真那に恋する資格はないよ…
桐島優斗
平田紗綾
桐島優斗
……ごめん
平田紗綾
桐島優斗
平田紗綾
桐島優斗
平田紗綾
…ばか



          * * *


それから僕は家に帰り、お風呂で平田さんの言葉を思い出していた。
全く言ってた通りだ。
あと一歩、あと1秒、あと3㎝…
救急車を待ってる間中ずっと考えてた。
平田さんは、宮元さんが僕のことを本気で好きなんだと聞いたが、それは僕も同じだ。
いや、平田さんが思っている以上にきっと僕は宮元さんが好きだ。
咄嗟に声を出した。
手だって精一杯伸ばしたさ。
今までで一番強く思ったよ、
"どうか、時よ止まってくれ"って。
悪いのはトラックのドライバーと運命の女神様なんだ。
だから僕に当たらないでくれ。
もうこれ以上関わらないでくれ。








         * * *


僕は一週間ぶりに学校へ行った。
休んでいる間のノートやプリントには困らなかった。
僕に届けてくれる女の子達ファンがたくさんいたからだ。
そう、言ってしまえば僕は女関係には困らない
と思っている。
僕は所謂モテる人の部類に入っていて、顔だけで「あ、タイプかも」と思う人は大勢いるって前の彼女も言っていたし。
きっと宮元さんもそのうちの一人だ。
きっと
女子
あ、おはよう桐島くん!
女子
大丈夫?風邪だったの?
女子
もぅ、心配したんだからぁ!
桐島優斗
あ、うん
女子
とにかく、元気になってくれて良かったあ~
女子
ねえねえ、桐島くん復活祝いに皆でカラオケ行こうよ!
桐島優斗
ごめん、今日は無理
女子
えぇ~(´ロ`ノ)ノ
女子
やだ~クール~
女子
ま、そんな桐島くんが大好きなんだけどねー❤
桐島優斗
じゃ、
女子
またね~!







聞き飽きた台詞
何度も繰り返した会話
使い回した定型文
どれも、求めてる言葉じゃない、
どれも、言ってほしい相手じゃない。
平田紗綾
あ…
桐島優斗
あ…
平田紗綾
桐島優斗
えっ…と
平田紗綾
気まずいな…
桐島優斗
あの、
平田紗綾
こっ、この間は……
桐島優斗
あの、それは、
平田紗綾
ごめんなさい…!



そう言うと平田さんは走って行ってしまった。
僕は手を伸ばしたまま、その場で立ち尽くしていた。



この一週間、宮元さんの意識が戻ることはなかった。








__________________________________

プリ小説オーディオドラマ