あと一歩
あと一歩だけ前に出ていたら。
あと1秒
あと1秒だけ早かったら。
あと3㎝
あと3㎝だけ後ろだったら。
僕は
大切な人を、守りたいと思った人を、
二度も失わずに済んだのかもしれない。
* * *
* * *
それから僕は家に帰り、お風呂で平田さんの言葉を思い出していた。
全く言ってた通りだ。
あと一歩、あと1秒、あと3㎝…
救急車を待ってる間中ずっと考えてた。
平田さんは、宮元さんが僕のことを本気で好きなんだと聞いたが、それは僕も同じだ。
いや、平田さんが思っている以上にきっと僕は宮元さんが好きだ。
咄嗟に声を出した。
手だって精一杯伸ばしたさ。
今までで一番強く思ったよ、
"どうか、時よ止まってくれ"って。
悪いのはトラックのドライバーと運命の女神様なんだ。
だから僕に当たらないでくれ。
もうこれ以上関わらないでくれ。
* * *
僕は一週間ぶりに学校へ行った。
休んでいる間のノートやプリントには困らなかった。
僕に届けてくれる女の子達がたくさんいたからだ。
そう、言ってしまえば僕は女関係には困らない
と思っている。
僕は所謂モテる人の部類に入っていて、顔だけで「あ、タイプかも」と思う人は大勢いるって前の彼女も言っていたし。
きっと宮元さんもそのうちの一人だ。
きっと
聞き飽きた台詞
何度も繰り返した会話
使い回した定型文
どれも、求めてる言葉じゃない、
どれも、言ってほしい相手じゃない。
気まずいな…
そう言うと平田さんは走って行ってしまった。
僕は手を伸ばしたまま、その場で立ち尽くしていた。
この一週間、宮元さんの意識が戻ることはなかった。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。