秋、かあ。
秋になったはずなのになあ、
新学期になってから一週間、
まだまだ異常な暑さが続きそうな空を窓越しに見て、ため息をついた。
私は毎朝このバスを使って学校へ通っている。
いつも降りているところまで7箇所のバス停があるが、誰も乗ってこないし、乗っているのも自分一人だけだ。
それもそのはず、こんな片田舎の高校に、片道バスで20分くらいの近さに住んでいる生徒なんて私くらいしかいないからだ。
他の皆はもっと遠くから来ていて、地元に住んでいた子は皆都会の高校へ行ってしまった。
何故ならここ周辺には商業高校や農学校、家政系の学校くらいしかないからだ。
私は実家が農家だから、跡を継ぐために農学校へ入学したのだ。
でも、特にイケメンがいるわけでも、有名人やお金持ちがいるわけでもない。
それに田舎だから何かすごい出会いがあるわけでもない。
ただ一日中、寝て起きて、ご飯を食べて学校へ行き、友達と喋って、帰ってからも家の手伝いや勉強をして、ちょっとスマホを触って、お風呂に入って寝る。
そんな具合だ。
運転手さんにこう言ってもらえるとなんだか今日一日は安全に過ごせるような気がして好きだ。
* * *
私って…そんなにロマンチストなんだなあ…
* * *
夕方、部活終わりの学校
沈んで行く太陽と、子供たちと一緒に帰っていくように流れる雲
ちょっと涼しい風と一緒にどこかの家の晩ご飯の匂いがする
空の色は1秒後には違う色になる
私の心も…
紗綾とは駅で別れる。
その後、ちょっと近くで暇潰しをして、それからバスに乗って帰る。
今日もバスの中には私一人だけ。
今日はバスに乗る時に運転手さんにお菓子をもらった。
帰ったらありがたくいただくこととしよう。
バスのエンジンがかかり、もうすぐ出発、その時だった。
男の子が乗って来た。
私と同年代くらいで、背の高いスラッとしている男の子。
その子が振り向いた時、一瞬だけ、目が合った。
一瞬目が合っただけなのに、
私はすぐに理解した。
ああ、これが、
これが一目惚れなんだ。
恋って、
こうやって始まるんだな、
って。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。