次の日の朝、その子が例の転校生だとわかった。
私より一歩早く乗っていた転校生は、私の特等席に座っていた。
左側の、後ろから二番目の座席。
仕方ないので、私はその後ろの、一番長い席の右端に座ってその子を観察することにした。
私は、そのサラサラの黒髪にずっと見惚れていた。
あの子、ヒロト君っていうんだ…
私はいつものように紗綾との待ち合わせ場所へ行こうとした。
しかし、いつも私より先にいるはずの紗綾はいなかった。
その時、ヒロト君、に声をかけられた。
道中は静かだった。
歩いて五分の距離だけど、こういうときになにか話せたらなって思う。
あと、コミュ障を恨む。
* * *
ヒロト君は私と同じクラスになった。
本当は新学期が始まったその日から来るはずだったのだが家の都合で今日になったらしい。
なんとなく、名前じゃなくて苗字にした。
そのうち名前で呼び合えたらいいなー、なんて。
* * *
今回は朝より賑やかだった。
紗綾は誰とでも話せてちょっと羨ましい。
でも、私より先に桐島君と仲良くなっちゃうのはちょっと…
うーん…
なんだろう…この感じ…
嫌…っていうか、でも、ねえ、
うーん…
ドンッ
なんか、近い…桐島君いい匂いがする…
って何考えてんだ私!
状況を整理すると…
工事中の中庭の近くを通ってて…上から何かが落ちてきて…そこを桐島君に助けてもらって…それで私は今桐島君の腕のなか…?
紗綾は私と桐島君、どっちに向かって言ったのかわからなかった。
だって、ふたりとも顔が真っ赤だったから。
* * *
正直、びっくりしたけど嬉しかった。
好きな人と、毎朝一緒なんだな、二人きりなんだな、って。
でも二人きりなのを意識しちゃうとちょっと恥ずかしいな…
* * *
その日の夜、紗綾からラインが来た。
…紗綾め…ぬかりのないやつめ…
最後の一言に既読がついたとき、桐島君からラインが来た。
その一瞬で体温が少し上がるのを感じた。
緊張して文章が打てなかったので、とりあえず「おやすみ」と言っている可愛いくまのスタンプを送っておいた。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。