あの富裕層の男の家に行ってから一週間ほどたった頃、
数ヵ月に一回だけハラボジとハラモニの好きなお酒を、
あのコンビニに買いに行く。
そう、僕は油断したんだ…
久しぶりの雨に、まさか、
こんな日までチンピラ達が来ると思ってなかった。
お酒を買い、コンビニを出ると、
さっきよりも強い雨が降っていた。
ボロボロの傘を指し九龍村に向かおうとしたその時…
チンピラ達は後ろから僕の口を押さえ、
路地裏に引きずり込んだんだ。
一瞬、コンビニ店員と目があった気がしたが、
助けてはくれないだろう…
ドンっと強く押され、倒される。
抵抗してみたが、馬乗りになり、
数人がかりで押さえつけられ、
着ていたパーカーを無理やり首もとからひっぱられ、
抵抗する気が無くなった。
と、顔を一発殴られると、口から鉄臭い味がする。
自分の未来に期待した事なんて無かったが、
無性にむなしく、悲しくなり、
そう言って血の混じった唾をはきかけてやった。
しばらく馬乗りのまま殴られて居ると、
声のする方を見ると警察官が立っている。
その後ろにはさっきのコンビニ店員。
通報してくれたんだなぁと、
どこか他人事だったが、チンピラが一目散に逃げるのを見て、僕も面倒事が嫌で逃げる。
どうせ九龍村の人間の為に警察はまともに動かない。
しばらく走って逃げると、警察もチンピラも居なくなっていた。
夜のビルに写し出された自分にふと気づく。
全身雨に打たれ、
ジッパーの壊れたパーカー。
押し倒されて汚れた服。
なんともみすぼらしい小汚ない格好。
良く見ると顔にも痣が出来、頬と目が腫れている。
フードを被り顔を隠す。
ハラモニとハラボジには見せられない。
途方もなく歩いていると、雨に濡れて重たくなったパーカーに全身の体温が奪われ、意識が朦朧としてくる。
そんなとき、
あの低音のあったかい声が頭をよぎった。
そして、知らず知らずのうちに、
とこかすがる気持ちでアペルバウムの前に来ていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。