あの日から…あいつを見るたびに思い出してしまう。
DJヒョンジンのお休みのキス…
誰が1番良い音が出せるのか…
まさかメンバーじゃなくてあなたが1番上手いなんて…。
俺は一度も本当にキスをした事は無いけれど…
あなたはあるのだろうか…
インスタントコーヒーの蓋を開け
スプーンですくって俺の愛用グリーンのマグカップに入れる。
あなたも珍しく飲むのか、もう一つのマグカップにも入れている。
そんな様子を見ながら、俺はダイニングテーブルの椅子に腰を掛けた。
あなたって…寝起きでもキレイな顔してんのな…
肌は白く、唇は自然な血色で…
考えごとしていたから、声をかけられ
咄嗟にお礼の言葉を言ってしまった。
あなたが目をぱちくりさせている。
そう言って目線を外した。
カタッ…
あなたもダイニングテーブルでコーヒーを飲むようだった。
てっきりそのまま部屋に戻ると思っていたのに。
熱いのか、コーヒーに息を吹きかけている。
窄めた唇に目がいく。
ずず…
コーヒーを飲むあなた
少し口から溢れたのか、ペロっと舌で拭った。
淹れてもらったコーヒーを一口飲む。
うん。俺の好きな味。
飲み物の棚には、それぞれのメンバーが自分好みのお茶を置いている。
あなたと朝が一緒になった時は、
ほとんど淹れさせているから、間違う事などない。
だけど、いつもと違うような?
良かった〜と言ってあなたはニッコリ微笑んだ。
笑う時って普通は目に目線が行くのに、
俺は…あなたの口元に目がいってしまう。
微笑んだ後、コップに口を付けた。
何がですか?という顔をしながらコーヒーを飲んでいる。
コーヒーを吹き出しやがった。
俺が吹かせてしまったわけで、仕方無いので台拭きを流しに取りに行き、テーブルを拭く。
あなたは俺から台拭きを取り、自分で拭き始める。
無いのか。
ホッ…
!?なんで俺、ホッとした??
あれからずっとつっかえた感じがしてたのが、
取れたような…そんな感じ。
あなたは上目遣いでちらっと見上げた。
テーブルを拭くあなたの手に俺の手を重ねる。
ピタッとあなたの動きが止まった。
もう片方の手であなたの頬に触れ、くいっと持ち上げる。
あなたの顔が熱くなるのがわかった。
ドキッ…
コイツ…こんな顔するのかよ。反則だろ。
俺の顔も火照りそうになり、
ぱっと手を離し、代わりに手をグーにしておでこをコツンと小突いた。
テーブルを掃除しながらあなたが空気を変えようと話しかける。
そうだな…一緒に連れて行ってもいいかもな。
…
…
…
身支度を整えた後、俺たちは電車に乗り金浦市へ向かう。
そう。そこには俺の実家がある。
親にはあなたを連れて行くとは言っていないが、まぁなんとかなるだろう。
地元の駅について、近くのスーパー前に到着した。
カゴの中に牛肉のかたまりと、適当に野菜を入れてレジへ向かった。
お母さんと、お父さんと、お婆ちゃんと、俺とあなたの分。5人分の食材だから結構な量だ。
着替えの入った鞄はあなたに持たせ、重たい食材は俺が運んだ。
スーパーから実家まではすぐ近くなので、大した事はない。
マンションのエレベーターを上がり、久々の実家のドアを開ける。
あれ?部屋の中が真っ暗だ。
いつもは玄関の廊下には電気が付いているのに、それすらもついていない。
廊下を抜け、リビングに入ると、そこも電気が消えていた。
ボソリと呟く。
洋服を買いに行く分にはいいけど、
母さんが食材を買ってきてしまったら無駄になってしまう。
一応電話しておくか…
買ってきた食材をリビングのテーブルにどさっと置き、すぐにスマホを取り出し母さんに電話をかける。
トゥルルルル…
「もしもし?」 聞き慣れた懐かしい声が聞こえる。
「母さん?俺だけど、家帰ってきたよ。」
「ええ!?」驚いた声が聞こえた。
サプライズになったみたいで嬉しい。
だけどこの後、思いも寄らない返事が返ってきた。
「お父さんが久しぶりに連休取れたから、お婆ちゃんと3人で温泉旅行に来ちゃったのよ。泊まりだから帰れないわよ」
電話を切ってあなたがすぐ声をかけてきた。
そう言って、あなたの顔に触れる。
かぁーっと赤面していくあなた。
この表情…嫌いじゃないな。
今日は何度もこんな顔を独占して見られるのか。
悪く無いな…。
顔に触れていた手を離し、食材を袋から取り出す。
あなたも慌てて手伝おうとする。
顔はまだ赤いまま。
いつもより料理をするのが面白くなるかもな。
ジャーーー
キッチンの流しで手を洗う。
まずは牛肉のかたまりにフォークでブスブスと穴をあけ袋に入れる。
お湯を鍋で沸かしている間に、ニンニクをヘラで潰し、牛肉を入れた袋に入れる。
沸騰した鍋へ袋のまま入れ茹でる。
2分半ほどで肉が全体的に白くなるので、
火を止めて、鍋に入れたまま20分程放置。
その間に温野菜を作りたいのだが…
横で手際悪いやつがいる。
あなたの後ろから見守る。
暇だから首筋に息を吹きかけてみた。
反応が面白いな。
今度は優しく耳に吹きかけてみた。
顔が赤くなっていくのがわかる。
くすぐったいのか、首を曲げて、耳を守ろうとしている。
反対の耳はガラ空きなんだけどな。
右耳の耳タブに噛みついてみた。
あなたの指が包丁で傷ついたようだった。
薄らと血が滲んでいる。
すぐに止血を!!
ティッシュで傷ついた左手の人差し指を抑え、
少し強めに圧迫した。
ティッシュで抑えた傷口を確認する。
本当に浅いようで安心した。
でもこういう地味な傷が結構痛いんだよな…
あなたの顔が赤くなり、咬んだ方の耳を手で抑えた。
その反応が可愛い。
あなたの反応を見ていたら俺まで赤くなりそうで、視線を逸らし、任せていた皮剥きを代わりに行った。
人参、じゃがいもの皮を剥き、ブロッコリーを一口大に切る。
タジン鍋に野菜を入れ火にかけた。
肉もちょうど良い頃合になった。
フライパンでニンニク炒め、香りが立ったところで肉を入れ全体に焼目をつけていく。
こいつ何見てんだよ…。
褒められるのに慣れてないし
メンバーに声かけてるのが知られていてすごく照れ臭い。
そうこう考えているうちに、肉はキレイに焼き色がついてきた。
火からおろし、粗熱が取れたら冷蔵庫で冷やして完成だ。
大分待つのでソースを先に作る事にした。
あなたは肉の残り汁に醤油、砂糖、おろしニンニクを混ぜ、ワサビを少し入れた。
できました!とみせるので、ペロっと味見してみた。
和風も悪くないんだな。
今度、和風よりのレシピを作ってみよう。
俺はもう一つバーベキューソースを作っておいた。
じゃぁ、ご家族の分と私たちの分に分けて
私達の分は半分冷蔵しましょう!
その案にのっかる事にした。
俺もお腹ぺこぺこだったし。
あなたは肉を俺の作ったバーベキューソースに絡めて一気に頬張る。
目を丸くして、口元に手を当て、もぐもぐ食べてる姿はまるで小動物だ。
あなたの反応を見たかったから俺はまだ食べていない。
ニコニコしながら美味しいを連呼するあなたを見て思わず俺も笑顔になった。
そしてつい…
と呟いてしまった。
あなたは夢中で食べているので、俺の言葉には気がつかなったようだ。良かった…
かわいいと呟いた時に笑顔になってたんだ…
冗談じゃなく、本気で言ってるもんだから
それ以上言い返せなかった…
…
…
…
美味しい食事(俺が作ったんだから当然)も終わり、
談笑して過ごし、夜も更けてきた。
あなたを先に風呂に入れ、
俺が風呂から出て来た後も、少しまだあなたの顔は火照っていた。
アイスアメリカーノを作り、渡す。
吹き出したコーヒーを二人で片付け
ベッドに一緒に入る。
背中合わせだ。
シングルベッドだから狭く、少し触れてしまう。
背中越しにあなたの体温が伝わってくる。
あなたの方に向き直すと、俺のかけた言葉に反応してこっちを見ていた。
そう言ってあなたの首元に腕を入れ、
腕枕する形をとる。
くるっと俺の方に向き、腕の中に収まる形となった。
もう片方の腕であなたを抱く。
なんだこれ…柔らかい。
抱き枕みたいな心地良さだった。
あなたが言い返してきたから、顔がこっちを向き、
至近距離で目が合う。
そっとあなたの頬に触れる。
じっと見つめる目。
窓から入ってくる外からの淡い光で、あなたの目が潤んで見えた。
それが硝子のようにとてもキレイで吸い込まれそうになる。
唇を指でなぞる
ぴくっと動いた。
この前のキスの音が思い出された。
あなたが自分の手の甲に当てて出したキスの音。
少し膨れて、拗ねたようだった。
そんな表情もかわいい。
もう一度目線を合わせさせるために頬に触れる。
ちゅ…
唇が重なる。
甘い…甘い 音…
おでこをコツンと合わせた。
目線をそらしたけど、照れてるのかな。
本当かわいい。
今度は、ちょっとだけ長めに…
---「ぽっぽの続きーリノ」fin---
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!