今日は12月24日。クリスマスイブ。
街はクリスマスムード一色だけど、私はいつもの日常と変わらない。
JYP練習生としてレッスンを受け、宿舎に帰宅する。
ああもう18時。クリスマスイブも6時間後には終わってしまう…。
宿舎のリビングに入ると、部屋から出てきたフィリックスが大きなあくびをして伸びをしている。
今日は一人だけ撮影も何も入っておらず、一足早く休暇に入った。
一人で休みだとわかると嬉しすぎて、朝までゲームをし、そこからずっと寝てしまったという事だそうだ。
フィリックスが怯えたような顔で、大きな声を出した。
慌てようが尋常では無かったので、仕事に穴を空けてしまったのではないかと、私までも変な汗が滲み出てきてしまった。
とりあえず一安心だと、力が抜けた。
私の肩を持ってガクガクと揺さぶる。
ぱぁーっとフィリックスの顔が明るくなる。
こんなに表情がコロコロ変わって、本当にフィリックスって可愛らしい。
宿舎には、6畳程の広さのウォークインクローゼットがある。主にメンバーの季節物の服がしまってあるそうだが、使わなくなった機材なんかも置いてあった。
クリスマスツリーといった季節物は上の棚の奥の方にしまってあるようだった。
届かない上に、誰かの私物の入った段ボール箱も置かれて、すんなり取れない。
五段ほどの脚立を出し、さっと登る。
段ボールをずらし、ツリーの入った箱を手に取った。
そういって私に渡そうと箱を引き出した。
思ったよりも箱は長く大きい。
私の手では抱えきれない大きさの箱だった。
でも重くは無いので何とかなりそうだった。
しっかりと受け取ったのを見届けて、フィリックスが手を離す。
ぐらっ…
思ったより重かった!
フィリックスがほとんど支えてくれていたのだと気がついた時には遅く、私はバランスを崩してしまった。
斜めになった箱が、上にずらした段ボールにぶつかる。
不安定に置いてあったようで、段ボールが上から私を目がけて落ちてきた。
落ちてきた段ボールは衣類が入っていたのか軽かったようで、フィリックスが腕で弾いて避けた。
が、バランスを崩し脚立から落ちてしまい私に覆い被さる。
床に倒れる私。
ツリーの入った箱と、その上にフィリックスが重なる。
すかさずフィリックスは起き上がり、下敷きになった私を助けようと、まずはツリーの箱をどかした。
心配そうな顔で覗き込む。
私の背中に腕を回し、起き上がるのを手伝う。
フィリックスがすごい心配そうな表情を浮かべるので、これ以上心配かけさせまいと笑顔を見せた。
フィリックスの顔が赤くなる。
一瞬照れた表情を見せたフィリックスだったが、大きな怪我をしていないか、心を集中させているようだった。
私の後ろに周り、背中側の服を捲り上げる。
フィリックスは救急箱のあるリビングに取りに行った。
ごめんね、もう一度背中まくるね、そう言って背中側の服をぺらっとまくり薬を塗る。
絆創膏を貼ろうとしてもう少し服を上に上げるとフィリックスがピタっと停止した。
顔を赤くしながら、フィリックスは背中に絆創膏を貼ってくれた。
捲り上げた服を整えてくれるフィリックス。
呼吸を整えているようだった。
不自然なフィリックスの顔を覗き込むと、
フィリックスがますます顔を赤くし、目を逸らした。
最後の方が何言ってるかわからない。
恥ずかしい!!!
けど、フィリックスは悪気があったわけじゃなく、むしろ心配してくれていたわけで…
私の顔も赤くなる…
このままだと気まずい雰囲気になってしまうから
気を取り直して…
いつものフィリックスの笑顔に戻っていた。
大きなツリーの箱を二人でリビングに運ぶ。
箱を開けると、組み立て式のツリーだった。
全部繋げると180㎝はありそう。フィリックスの身長も越えている。
翌年からは、手の空いているメンバーとフィリックスで飾り付けをしているそうだ。
小さなサンタのマスコット
雪の結晶を模ったオーナメント
木でできたお家
ひとつひとつを丁寧に取り付けていく。
飾りひとつひとつにも思い出があるのだとフィリックスは語った。
キラキラ輝く星の飾りはスンミン、
銀色の汽車はバンチャン、
犬のマスコットはヒョンジン、
リアルな顔立ちの雪だるまはハン、
クリスマスツリーは全体的に赤くツヤツヤした球が飾られているが、赤にしようと決めたのはアイエンだという。
飾りが一通り入ったケースの中に食品サンプルのキーホルダーが入っている。
ラーメンの食品サンプルの他にも、チャーハンやステーキもある。
飾ってみると意外とかわいい(笑)
綿を千切って、薄く伸ばして、ツリーの枝に取り付けていく。
最後に電球のスイッチを入れる。
綿の雪が電球を隠し、淡く光る。
そう言ってフィリックスはキッチンに駆け込み、大きな買い物袋を二つ持ってきた。
25日になったら好きに食べて良いそうだ。
あなたさんも好きなの取っていってねとニコニコしながら話した。
ポテトチップといった大きめのお菓子から、懐かしい駄菓子までバラエティにとんだチョイスだった。
それらのお菓子をどんどんラッピングしていく。
指にはめられるキャンディーで、宝石の形をした部分がキャンディーになっている。
韓国にある駄菓子は日本に無い物も多かったが、似ている物も多くあった。
フィリックスと私は、「懐かしいー」と話しながらお菓子を詰めて行った。
一通りつめ終わり、ツリーの下に置く。
子供の頃にこんなにツリーの下にお菓子があったらどれだけ嬉しかっただろうと、子供の頃の自分と重ねて眺めた。
パチッ
電気の電源を消すと、ツリーの灯りが一層際立つ。
暖かなクリスマス。
街の中にあるツリーと違って、自分の家の中にあるツリーはなんて暖かい心地にさせてくれるのだろう。
心がポカポカしてくる。
カサカサカサッ
フィリックスがお菓子の袋を開けた。
そう言って袋から取り出したのはイチゴのジュエルキャンディーだった。
そう言って水色のジュエルキャンディーも袋を開けて取り出した。
クリスマスツリーの淡い灯りに照らされ、
ピンクとブルーのジュエルキャンディーがキラキラ輝いていた。
ツリーの前で跪くフィリックス。
手を差し伸べている。
フィリックスの差し出した手の上に、そっと私の左手を重ねる。
フィリックスはイチゴのジュエルキャンディーを私の薬指にはめた。
英語の苦手な私でもわかる。
これは、クリスマスソングとして発売された、「24to25」の歌詞だ。
思わず顔がほころぶ。
跪いたままフィリックスは、ソーダ味のジュエルキャンディーを自分の左手にはめ、口元に持っていく。
ちゅ…
唇から離したジュエルキャンディーをコツンと私の指にあるジュエルキャンディーに合わせた。
メリークリスマスの別の言い方だろうか?
マリーとも聞こえたけど…
ネィティブな発音だとこうなのかな?
そう言って、私の手の甲に ちゅっと口付けた。
---「君と過ごすクリスマス-フィリックス」fin---
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!