目覚ましのアラームが鳴り響き、慌てて飛び起きる。
時計に目をやると、8:30。
スマホの画面に同時に表示される日付は、12月25日(土)だった。
土日は練習生のレッスンは無くお休み。
二度寝しようかとも思ったけれど、飛び起きた為に意外とスッキリ目覚めてしまった。
今日はクリスマス。
何の予定も無いけれど、せっかくの休日だしこのまま起きて時間をゆったり過ごすのもいいかもしれない。
ベッドから出て部屋を出る。
顔を洗うにも、洗面にはリビングを通る部屋の作りになっている。
リビングを通り過ぎた時、違和感を感じ振り返る。
アイエンが、リビングの黒いソファーの上で正座し、テレビを凝視している。
なんでそんな格好で…
憧れの先輩でも歌番組に出ているのだろうか?
寝起きで頭ボサボサな姿を見られたく無く、
声をかけずささっと洗面に移動した。
バシャバシャと顔を洗う。
…違和感を感じる。
シャカシャカシャカシャカ
??歯磨きの音?
顔を洗い終え、見上げると
鏡越しにアイエンの姿が見えた。
感じた違和感は、アイエンの気配だったのか。
アイエンが歯磨きしながら無言でタオルを渡してくれた。
ぺこりとおじぎするアイエン。
歯磨き中だから声は出せないものね。
ふかふかなタオルで顔を拭き、化粧水をパタパタとつけ、寝癖のついた髪をブラシでとかしていく。
アイエンと鏡越しで目が合う。
合うというか、じっと見られているというか…
声をかけ、洗面所をあとにした。
後ろからうがいのする音が聞こえる。
洗面使いたかったから見てたのかな?
飲み物を取りにキッチンへ向かった。
確か前に買った炭酸水がもう一本あったはず…
冷蔵庫を開けて探してみる。
コーラやコーヒーや牛乳など、メンバーの好きな飲み物が沢山詰まっているので、2日前に買った物はもう奥においやられている。
取り出すにも一苦労だ。
冷蔵庫を閉め、振り返ると…
アイエンが真後ろに立っていたのでおもいっきりぶつかってしまった。
アイエンは大丈夫と言わんばかりに頭を縦にふっている。
今日はやたらとアイエンと接触するなぁと思いながら部屋に戻った。
ベッドに座って炭酸水のペットボトルの蓋を開ける。
そういえば…今日はアイエン以外のメンバーと会わない。
宿舎もしんとしているので、メンバーはアイエン以外居無いのだろうか…
トントントン
部屋をノックする音が聞こえる。
ガチャっと扉が開くとアイエンが入ってきた。
そこまで言って無言になる。
一礼して扉を閉めて部屋から出ていった。
もしかして、アイエンも休みで、家に一人でいたかったのだろうか!?
私がいたらゆっくりできないのかも!!
トントントン
また扉のノック音が聞こえる。
またアイエンだった。
パタン…
それだけ言うとまた扉を閉められた。
これは…やはり…私と家に二人なのが気まずくて
出かけてほしいというサインなのでは!?
トントントン
またまた扉を叩く音がする。
アイエンはあまり私と話しをしないから言い出しずらいのかも。
これは私からでかけると言うべきだ!
今度は私が扉を開けに行く。
目の前にアイエンがいる。
アイエンはみるみる顔が赤くなっていった。
アイエンはモジモジしている。
そう言って差し出されたのは2枚の映画のチケットのようだった。
アイエンは頬を赤らめながら嬉しそうな表情をしていた。
部屋の扉を閉め、パジャマから洋服に着替える。
映画か…服どうしようかな。
寒いしズボンの方が良いかな。
せっかくクリスマスだしちょっとオシャレしようかな。
ニットワンピースを選んで、急いで着替えリビングに向かう。
アイエンはリビングではやはり黒のソファーの上に正座してしる。
普段そんな座り方していないのに。
足先でも冷えるのだろうか?
何かボソっとつぶやいたようだけど、聞こえなかった。
映画館までの道、アイエンは手が寒いのか
パーカーのポケットに両手をつっこんでいた。
そんなアイエンの後ろを離れないように歩く。
たまにこちらを向いてくる。
目が合うので、ニコッと微笑むと、顔を赤らめパッと前を向いてしまうのだった。
身体を鍛えているから背中が広い。
ストレイキッズのマンネなのに、体格は弟感が無い。
筋肉があるからか、ポケットに手を入れていても肘が三角に張る。
◁□▷ ←こんな感じ。□が背中で◁▷が腕。
うーん。なんか不自然。
筋肉あってもそんなに三角に張るかな…。
そんな目線だけのやり取りを繰り返して、映画館に到着した。
ポップコーンとジュースを買って席に着く。
コロナ禍だからだろうか。
席はクリスマスでもガラガラだった。
映画館で観るのはアクション映画に尽きる!
大画面で観るこの迫力!
アクション映画は最後に必ず正義が勝つから、ハッピーエンドでだいたい終わるので、途中ハラハラしても安心して観る事ができる。
敵の地球外生命体がアメーバのようにウネウネ動く姿が気持ち悪く、
しかも突然現れ襲いかかってくる。
思わずビックリして声を上げてしまい口を抑える。
そんな様子にアイエンはクスクス笑っていた。
まばらに席が埋まった映画館なので、小声で喋りかけた。
聞こえなかったようで、アイエンの耳が近づいてきた。
もう一度同じ事を伝えるとコクコクと頷いていた。
変身を遂げた敵キャラが大きな呻き声を上げながら画面いっぱいに現れた!
イスが揺れ動くほどビクッと跳ねてしまった。
笑うシーンじゃないのに、私の反応を見てプルプル震えている。
笑いを堪えているようだった。
アクション映画は面白いし、展開もわかってはいるんだけど、
大きな音と、ビックリさせるような演出に私はまんまとハマって大きなリアクションをとってしまう。
今のシーンはなかなか驚かされるし、ちょっと怖いシーン。
笑われないように少し下を向いて、画面から目を背けた。
ギュッ…
手が握られる。
アイエンの方を向くと、
さっきまでの笑われた表情ではなく
すごく優しい笑顔だった。
その表情と握られた手に安心して、目を背けずにそのまま映画を見続けられた。
やっぱりビックリするようなシーンでは身体がビクッとなってしまうのだけど
その度にアイエンは優しい笑顔を向けてくれた。
映画が終わるまでずっと手を繋いだまま…。
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映画のラストは王道の展開で、スカッと爽快感漂うエンディングだった。
手が繋いだままなのにお互い気がついたが、
アイエンは離そうとしなかった。
映画館を出てすぐの所に、アイエンのお気に入りのカフェがあった。
木の温もりを感じる店内で、アイエンが奥にあるテーブル席に向かった。
席まで行って手を離す。
ソファー席を譲り、アイエンは椅子を引き出し腰をかける。
メニューを広げながら聞く。
このお店はセルフサービスなので、自分でレジに行き注文をする。
アイエンが席を立ち、買ってくるから待っててとレジに向かった。
しばらくしてカフェモカを二つ持って席に戻ってきた。
モコモコの泡にチョコレートソースがかかっている。
甘さ控えめでビターな味が口の中に広がる。
そのあとは、さっき観た映画の話しで盛り上がった。
ふいに店内の電気が消えた。
バチバチバチッ
花火が2本
店員さんがトレイに乗せて運んでいる。
私たちのテーブル前に到着した。
「メリークリスマース!」
と明るい掛け声と共に、花火がテーブルに置かれる。
花火はケーキにささっていたものだった。
クリスマスツリーをかたどったホールケーキが登場した。
アイエンが微笑みながら声をかける。
私も言葉を返した。
花火が消えると店内の電気がついた。
花火の棒をそっと外す。
アイエンに促され、ツリーの形をしたケーキを一口食べる。
緑色をしているのはピスタチオだった。
ツリーを飾るオーナメントはドライフルーツ。
ケーキは3層構造で、スポンジが下にひかれ、中にはラズベリーソースが入り、上にピスタチオクリームが乗っている。
アイエンもフォークを差し、一口ケーキを食べる。
チョコモカとツリーのピスタチオケーキがすごく合ってパクパク食べてしまう。
アイエンの指が私の唇をなぞる。
クリームが口についていたようだ。
指についたクリームをアイエンはパクっと食べた。
ケーキを食べ終わり、お店を出た。
相変わらずアイエンは映画館に向かう時と同じく◁□▷のポーズで歩く。
このポーズ、なんか違和感あるんだよねぇ…
そんな事を考えていると、何も無い所でつまづいてしまった。
すかさずアイエンが支えてくれる。
そう言って、アイエンの自分の腕に私の腕を絡ませた。
左腕は◁にしたまま、右腕はポケットから手を出しだらんとおろす。
もしかして…最初からこうしたかったのかな?
ちょっとかわいいかも…
腕を組み…家路を歩く。
あちこちからクリスマスソングが聞こえた。
---「君と過ごすクリスマス-アイエン」Fin---
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。