「──父さん、母さんっ………!」
場所は病院の霊安室。
その少女は両親の手を握り締めながら叫んでいた。
「おいてかないで………私をひとりにしないでっ」
「ねぇ、起きてよ……なんで寝てるの……」
「お願いだからっ………いかないで──」
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ピピピピピピ……
久しぶりに父と母の夢を見た。
まぁ、仕方ない。昨日は2人の命日だったのだから…
父と母の夢はよく見る……というわけでもない。
命日の次の日に必ず、いつも同じ夢を見る。
眠い目をこすり、のろのろと着替えをしているとドタドタと足音が聞こえた。
ガチャ
彼は鈴原 龍央。
私の幼なじみでお世話役でもある。
そのせいか、龍央は私を「お嬢」と呼ばず、「椿」と呼ぶ。そして、タメ口だ。
まぁ、大事な時は「お嬢」で敬語だけど。
父と母の夢を見たなんて言えない。
でも、龍央は言わずとも気づいているだろう。
龍央とは私がこの家に入った時に知り合った。龍央は孤児だった。親に虐待され、家を抜け出したところをおじいちゃんに拾われたそうだ。
今じゃ、孤児の面影もなく、こんな生意気坊主になっちゃって………
入りたての頃は怖がり、ビビり、弱虫の三拍子だったらしいけど。
みんな一斉に手を合わせると、
挨拶をし、ご飯を食べ始めた。
これが、鬼門組流朝の始まりの挨拶。
椿が来てから習慣となったのだ。
今夜、私たちはある組を潰しに行く。
その組は違法な売買,取引をし、薬物にも手を出しているだとか……
これが事の発端だった。
私はこれから起こることを何度も後悔したんだ──
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。