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第1話

極道の孫娘
675
2020/12/08 10:28
「──父さん、母さんっ………!」

場所は病院の霊安室。
その少女は両親の手を握り締めながら叫んでいた。

「おいてかないで………私をひとりにしないでっ」

「ねぇ、起きてよ……なんで寝てるの……」

「お願いだからっ………いかないで──」


ピピピピピピ……
鬼門 椿
鬼門 椿
もう、朝か
久しぶりに父と母の夢を見た。
まぁ、仕方ない。昨日は2人の命日だったのだから…

父と母の夢はよく見る……というわけでもない。
命日の次の日に必ず、いつも同じ夢を見る。
鬼門 椿
鬼門 椿
今日はだるいな………
眠い目をこすり、のろのろと着替えをしているとドタドタと足音が聞こえた。
鬼門 椿
鬼門 椿
来た
ガチャ
鈴原 龍央
鈴原 龍央
おい、椿!起きr……起きてたわ
鬼門 椿
鬼門 椿
ノックをしろ、ノックを
彼は鈴原 龍央。
私の幼なじみでお世話役でもある。
そのせいか、龍央は私を「お嬢」と呼ばず、「椿」と呼ぶ。そして、タメ口だ。
まぁ、大事な時は「お嬢」で敬語だけど。
鈴原 龍央
鈴原 龍央
珍しいな、俺が起こしに来る前に起きてるなんて
鬼門 椿
鬼門 椿
ん、まぁね………
父と母の夢を見たなんて言えない。
でも、龍央は言わずとも気づいているだろう。

龍央とは私がこの家に入った時に知り合った。龍央は孤児だった。親に虐待され、家を抜け出したところをおじいちゃんに拾われたそうだ。
鈴原 龍央
鈴原 龍央
じゃあ、早く行くぞ
俺、腹減って仕方ないんだけど
鬼門 椿
鬼門 椿
はいはい、わかったよ
今じゃ、孤児の面影もなく、こんな生意気坊主になっちゃって………
入りたての頃は怖がり、ビビり、弱虫の三拍子だったらしいけど。
若衆(子分)
お嬢、おはようございやすっ!
鬼門 椿
鬼門 椿
みんなおはよう!
鬼門 椿
鬼門 椿
あっ、おじいちゃん、おはよう!
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
おはよう、椿
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
今日も一段と可愛いねぇ
流石、俺の孫だ
鈴原 龍央
鈴原 龍央
じいさん、今日も相変わらず孫愛がすごいな
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
じいさん言うな
鬼門 椿
鬼門 椿
おじいちゃん、私お腹すいた〜
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
おぉ、そうだな。じいちゃんもだ
さ、早く食べよう
鈴原 龍央
鈴原 龍央
お前、猫かぶりすぎだろ……
鬼門 椿
鬼門 椿
これくらいで良いのよっ
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
お前ら、早く席につけ!
若衆(子分)
うっす!
鬼門 椿
鬼門 椿
全員いるね?じゃあ………
みんな一斉に手を合わせると、
鬼門 椿
鬼門 椿
いただきます!
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
いただきます!
鈴原 龍央
鈴原 龍央
いただきます
若衆(子分)
いただきますっ!
挨拶をし、ご飯を食べ始めた。
これが、鬼門組流朝の始まりの挨拶。
椿が来てから習慣となったのだ。
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
椿、今日は……
鬼門 椿
鬼門 椿
うん、わかってるよ
今夜、私たちはある組を潰しに行く。
その組は違法な売買,取引をし、薬物にも手を出しているだとか……
鬼門 椿
鬼門 椿
心配しないで、おじいちゃん。
知ってるでしょ?私、強いから─
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
あぁ、お前の強さは十分知ってる。
だがなぁ……
鈴原 龍央
鈴原 龍央
大丈夫だ、じいさん。俺もいるし、お嬢は何がなんでも守るんでね。
鬼門 椿
鬼門 椿
ちょっと、誰が誰を守るって?
鬼門 椿
鬼門 椿
私はそんなに弱くないわ!
鈴原 龍央
鈴原 龍央
どーだかなぁ
お嬢はよくヘマしますからねぇ
この前だって………
鬼門 椿
鬼門 椿
この前の話は掘り返さんでいい!
鈴原 龍央
鈴原 龍央
ヘマすんなよ、お・じょ・う
鬼門 椿
鬼門 椿
こんのやろぉ!
若衆(子分)
始まったぞ!
若衆(子分)
お嬢と若頭の言い合い合戦だー!
鈴原 龍央
鈴原 龍央
お口が悪いですよ、「お嬢」
鬼門 椿
鬼門 椿
「お嬢」て絶対バカにしてるでしょ!
鈴原 龍央
鈴原 龍央
そんなことないですよぉ、「お嬢」
鬼門 椿
鬼門 椿
もぉ、黙れやっー!
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
はいはい、そこまで。
お前ら毎度懲りねぇなぁ
鬼門 椿
鬼門 椿
おじいちゃ〜ん
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
話を戻すけど、椿
気をつけるように
鬼門 椿
鬼門 椿
………はい
鬼門 雷蔵
鬼門 雷蔵
龍央、椿を頼んだぞ
鈴原 龍央
鈴原 龍央
はい
これが事の発端だった。
私はこれから起こることを何度も後悔したんだ──

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