第6話

#6 PARTY GYAL
700
2020/08/24 17:55
みんなが女の子の元に走っていくなか、私は突っ立ってただ見ているだけだった。


クリアだった音も徐々に濁っていって、背中につーっと汗が伝っていくのがわかる。

無意識のうちに私の目がその子にフォーカスして、周りがぼやけていく。


濁った音の中でうざったく騒ぎ立てる心臓。


彼女が私に気がつくと、周りを振りほどいて私の元に歩いてきた。
フィイン
フィイン
あなたがビョリ?
フィイン
フィイン
私、フィイン。よろしく。
ムンビョル
ムンビョル
あ……よろしく…
リュウ
リュウ
おい〜初対面なのに怖すぎだろさすがヤンキー(笑)
フィイン
フィイン
誰がだよっ笑
その後の会話も濁ったまんまで頭に入ってこない、右耳を通って左耳が出ていくかんじ。


透き通ったチャーミングな声と逆にクールな印象の彼女。でも笑顔が素敵で…


私はそんなフィインに、一目で恋に落ちた。
ジョイ
ジョイ
ちょっとビョリちゃん〜フィイナのこと見過ぎじゃない〜?笑
ムンビョル
ムンビョル
えっ…私、そんな見てた!?
時が止まってスローモーションかのように再生される世界から解き放たれ、ふと我に返り恥ずかしさに慌てふためく。
ジョイ
ジョイ
あははっ!焦りすぎぃ〜ビョリちゃんも『こっち側』のひと〜?
ムンビョル
ムンビョル
こっち側…?

私の腕を掴みグイッと自分に引き寄せると、ジョイは耳打ちをしてきた。
ジョイ
ジョイ
狙っちゃいなよ…フィイナ、どっちもイケるコだから♪
ムンビョル
ムンビョル
え!?べ、べべ、別にそーゆーのじゃ…っ////
ジョイ
ジョイ
わかりやす〜笑笑 ま、あとは
フィイン
フィイン
ビョリちゃんあんま飲んでないじゃん、ちょっと2人で話そうよ?
タイミング悪く私たちの元に割り込んでくるフィイン。


するとジョイは意味深な眼差しで私に微笑みかけると、ぽんと肩を叩いてみんなの元に行ってしまった…


あぁ…気まずい……。
フィイン
フィイン
どうしたの?
ムンビョル
ムンビョル
いや、なんでも…っ
フィイン
フィイン
何飲む?
慌てる私を深呼吸3回飲み込んで落ち着かせ、フィインに意識を集中する。


そんな私なんてお構いなしにお酒を頼む。相当鈍感なのか、慣れてるのかな…


たぶんそうだ。可愛いもん、モテるんだろうなきっと。
ムンビョル
ムンビョル
あんま詳しくないから分かんないかも
フィイン
フィイン
あまじ?苦いのはやめとくか、すみませーん!
フィイン
フィイン
これと…これ!お願いします!
慣れたようにおすすめのお酒を注文してくれた。
ムンビョル
ムンビョル
よくお酒飲むの?
フィイン
フィイン
ん〜頻繁ではないけど、アミーに劣らず酒豪かも?笑
フィイン
フィイン
ビョリは?
そういえば、みんな私をちゃん付けで呼ぶのにフィインは呼び捨てで呼ぶ。


あまりちゃん付けをするようなキャラじゃないのかな?クールだしな。


さん付けよりは親しみやすいし、彼女なりの配慮なんだろうけど…


でもそれが返って私の心臓を困らせる…
ムンビョル
ムンビョル
親は強いけど、私もそうなのかなぁ
フィイン
フィイン
お!じゃあ今晩は付き合ってもらおうかな?なーんて笑
ムンビョル
ムンビョル
ねぇ言い方(笑) あ、お酒きた。
店員さんが2人の前にお酒を置く。
フィイン
フィイン
飲み慣れてないかなって思って、はい。甘めのカクテルだけど調子乗ると酔うよ笑
ムンビョル
ムンビョル
んっ、これ美味しい!なんて言うの?
甘めのカクテルなだけあって、まろやかな口当たりでまるでコーヒー牛乳のような味わい。


へぇ〜世の中にはこんなお酒も存在するのか。
飲みやすいし、美味しくて好きかも。
フィイン
フィイン
カルーアミルクだよ。カルーアリキュールにミルクを混ぜた簡単なカクテル!
フィイン
フィイン
でもビョリお酒強いならグイグイ行かないと酔わないかも。
ムンビョル
ムンビョル
なんで酔わせたがるんだよ笑
テーブルにぽんと置いてあった焼酎をクイッと一口飲んで、頬杖つくと上目遣いでニヤッと笑うフィイン。
フィイン
フィイン
ビョリの色んな顔、見たいな〜って。
ムンビョル
ムンビョル
〜っっ、またそんなこと言って!!
フィイン
フィイン
だってまだ酔ってないでしょ?ほら飲んで飲んで、一緒に楽しくなろうよ?
無意識に出た言葉なんだろうけど、その言動一つ一つが私の心臓をドキッとさせる。


まだ何も知らない目の前の相手のこと、本気になりそうで怖い…


言われるがまま、そのまま大きなジョッキを一杯空にさせるとまた違うカクテルを頼んでくれた。
フィイン
フィイン
待ってる間、これチャレンジする?
そう言ってフィインは私の手にさっきの焼酎を持たせる。


嗅ぎ慣れないツンとした独特の臭み。


覚悟を決めてクイッと一口飲んでみるものの…
ムンビョル
ムンビョル
うぇっ…苦い…
フィイン
フィイン
あはっ!そうなるよね、ごめんごめん笑
頑張って飲み込んだけど、口の中に焼酎の臭みが広がってく。


飲みきれず口元から一滴だけ垂れてしまったのを、フィインが親指でクイッと拭うと
フィイン
フィイン
ふふ、間接キスだね?
あえて言わなかったし気付かないフリして何も言わなかったのに、艶美な眼差しでニコッと笑いながら言うもんだから


みるみるうちに私の顔は赤くなってきて、照れ隠しに強い言葉が出てくる。、
ムンビョル
ムンビョル
っ、からかわないでよ…!
フィイン
フィイン
ごめんごめん、こういうの嫌いだったかな
『こういうの』?


あ〜なるほどね。誰にでもするわけじゃないけど、対象なら誰でもするような人なんだ…


その一言のおかげでなんとか平静を保てたけど、私の強がりのせいで壁ができたように大人しくなったフィインにどこか寂しさを覚えていた。


だから、つい…
ムンビョル
ムンビョル
嫌い、じゃない…
フィイン
フィイン
ん?
ムンビョル
ムンビョル
なんでもないっ!
いいタイミングで店員さんがカクテルを運んでくれたから、それを手にとるとグイッと誤魔化すように勢いよく飲むけど、慣れない苦味が口の中に広がっていく。
アミー
アミー
あ、それ私の。めっちゃ濃い目に作ってもらったのだいぶ飲んだみたいだけど…平気?
ムンビョル
ムンビョル
んぅ…大丈夫れす…
アミー
アミー
あ、ダメだこりゃ。フィイナ、責任とってね笑
フィイン
フィイン
え、うち?
間違えてアミー(酒豪)のお酒を飲んでしまったみたい、しかも大きなジョッキの半分も。


テキーラコークって言うらしいんだけど…テキーラ、知ってる。みんながショットで狂ったように飲んでハイになる魔のお酒…でしょ?


あ〜やっちゃったな。理性なんてとっくにどっか行ってる。視界がグラグラで吐き気がしてトイレに駆け込むけど、その歩き方はまるでペンギンかのように情けない。
ムンビョル
ムンビョル
うっ…苦い…
フィイン
フィイン
ビョリ大丈夫?
出すもん出して、でも吐き気は止まらない。


あ〜あ、やだ。初対面の人の目の前でこんなこと…心配かけちゃったかな。


気持ち悪くてもはやトイレと恋人状態になる私に横からそっと背中をさすって、水をくれた。
フィイン
フィイン
ちゃんと止めたら良かったのに、ごめんねビョリ。水飲んで全部出しちゃいな?
ムンビョル
ムンビョル
うんん…マシになった
フィイン
フィイン
大丈夫?立てる?
ふらっと立ち上がってみたものの、まだ復活できてなくて視界が眩みトイレを出ようとしたところでよろめいてフィインを壁に押し付けるようにしてコケてしまった。


いわゆる壁ドンってやつ?やだ…こんな状態で、情けないなぁ〜…
フィイン
フィイン
ちょ、ビョリ?無理しないで
大丈夫?と優しく声をかけながら、フィインに体を任せてうなだれる私を受け止めてくれてる。


くらくらしてる。立ちくらみが直るまで優しく頭をぽんぽん、と撫でてくれる。


延長で私の顔を撫でると、そのままフィインは私をじっと見つめていた。
ムンビョル
ムンビョル
ん…?
フィイン
フィイン
お酒のせいに…しちゃおっか
ムンビョル
ムンビョル
え…んっ!
私の顔を掴むと、背伸びして唇が触れるだけの軽いキスをした。


状況が掴めず、私もフィインの目を見つめかえしていると…
フィイン
フィイン
…その目。ダメ。
ムンビョル
ムンビョル
え?
フィイン
フィイン
ごめんね、私酔ってるからさ。そろそろ戻れそう?
ムンビョル
ムンビョル
あ、うん…
私はよろめきながらフィインの肩を借りて、もうお会計を済ませて店の外に出ているみんなの元に戻る。



まるで、何もなかったかのように。



さっきのは夢?なんだったんだろう。
突然の睡魔に襲われて、ここからはもう記憶が曖昧になっていた。


どうやらみんな、近くにあるジョイの家に泊まる話になっているっぽいけど


私はリョウくんにおぶられてそのまま運んでもらった…

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