第16話

怪人二十面相-少年探偵 3-
65
2020/05/28 08:58
 少年は、急所急所で、短い質問をはさみながら、熱心に聞いていましたが、話がすむと、その観音像を見たいと申し出ました。そして、壮太郎氏の案内で、美術室を見て、もとの応接室に帰ったのですが、しばらくのあいだ、ものもいわないで、目をつむって、何か考えごとにふけっているようすでした。
 やがて、少年は、パッチリ目をひらくと、ひとひざ乗りだすようにして、意気ごんで言いました。
小林芳雄
ぼくはひとつうまい手段を考えついたのです。相手が魔法使いなら、こっちも魔法使いになるのです。ひじょうに危険な手段です。でも、危険をおかさないで、手がらをたてることはできませんからね。ぼくはまえに、もっとあぶないことさえやった経験があります。
羽柴壮太郎
ホウ、それはたのもしい。だがいったいどういう手段ですね。
小林芳雄
それはね。
 小林少年は、いきなり壮太郎氏に近づいて、耳もとに何かささやきました。
羽柴壮太郎
え、きみがですか。
壮太郎氏は、あまりのとっぴな申し出に、目をまるくしないではいられませんでした。
小林芳雄
そうです。ちょっと考えると、むずかしそうですが、ぼくたちには、この方法は試験ずみなんです。先年、フランスの怪盗アルセーヌ=ルパンのやつを、先生がこの手で、ひどいめにあわせてやったことがあるんです。
羽柴壮太郎
壮二の身に危険がおよぶようなことはありませんか。
小林芳雄
それは大じょうぶです。相手が小さな泥棒ですと、かえって危険ですが、二十面相ともあろうものが、約束をたがえたりはしないでしょう。
壮二君は仏像とひきかえにお返しするというのですから、危険がおこるまえにちゃんとここへもどっていらっしゃるにちがいありません。
もしそうでなかったら、そのときには、またそのときの方法があります。
大じょうぶですよ。ぼくは子どもだけれど、けっしてむちゃなことは考えません。
羽柴壮太郎
明智さんの不在中に、きみにそういう危険なことをさせて、まんいちのことがあってはこまるが。
小林芳雄
ハハハ……、あなたはぼくたちの生活をごぞんじないのですよ。
探偵なんて警察官と同じことで、犯罪捜査のためにたおれたら本望なんです。
しかし、こんなことはなんでもありませんよ。危険というほどの仕事じゃありません。
あなたは見て見ぬふりをしてくださればいいんです。
ぼくは、たとえおゆるしがなくても、もうあとへは引きませんよ。かってに計画を実行するばかりです。
 羽柴氏も近藤老人も、この少年の元気を、もてあましぎみでした。
 そして、長いあいだの協議の結果、とうとう小林少年の考えを実行することに話がきまりました。

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