第12話

怪人二十面相-壮二君のゆくえ 1-
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2020/05/28 08:57
松野の語ったところによりますと、けっきょく、賊は、つぎのようなとっぴな手段によって、まんまと追っ手の目をくらまし、大ぜいの見ている中をやすやすと逃げさったことがわかりました。

 人々に追いまわされている間に、賊は庭の池にとびこんで、水の中にもぐってしまったのです。でも、ただもぐっていたのでは呼吸ができませんが、ちょうどそのへんに壮二君がおもちゃにして、すてておいた、節のない竹ぎれが落ちていたものですから、それを持って池の中へはいり、竹の筒を口にあて、いっぽうのはしを水面に出し、しずかに呼吸をして、追っ手の立ちさるのを待っていたのでした。

 ところが、人々のあとに残って、ひとりでそのへんを見まわしていた松野運転手が、その竹ぎれを発見し、賊のたくらみを感づいたのです。思いきって竹ぎれをひっぱってみますと、はたして、池の中からどろまみれの人間があらわれてきました。

 そこで、やみの中の格闘がはじまったのですが、気のどくな松野は救いをもとめるひまもなく、たちまち、賊のために組みふせられ、賊がちゃんとポケットに用意していた絹ひもでしばりあげられ、さるぐつわ、、、、、をされてしまったのです。そして、服をとりかえられたうえ、高い木のまたへかつぎあげられたというしだいでした。

 そうわかってみますと、壮二君たちを学校へ送っていった運転手は、いよいよにせ者ときまりました。たいせつなお嬢さん坊ちゃんが、人もあろうに、二十面相自身の運転する自動車で、どこかへ行ってしまったのです。人々のおどろき、おとうさまおかあさまのご心配は、くどくど、説明するまでもありません。

 まず早苗さんの行く先、門脇中学校へ電話がかけられました。すると、意外にも早苗さんはぶじに学校へついていることがわかりました。では、賊はべつに誘かいするつもりではなかったのだなと、大安心をして、つぎには壮二君の学校へ電話をしてたずねますと、もう授業がはじまっているのに、壮二君の姿は見えないという返事です。それを聞くと、おとうさまおかあさまの顔色がかわってしまいました。

 賊は_わな@、、をしかけたのが、壮二君であることを知ったのかもしれません。そして、足にうけた傷のふくしゅうをするために、壮二君だけを誘かいしたのかもしれません。

 さあ、大さわぎになりました。中村捜査係長は、ただちにこのことを警視庁に報告し、東京全都に非常線をはって、羽柴家の自動車をさがしだす手配をとりました。さいわい自動車の型や番号はわかっているのですから、手がかりはじゅうぶんあるわけです。

 壮太郎氏は、ほとんど三十分ごとに、学校と警視庁とへ電話をかけて、その後のようすをたずねさせていましたが、一時間、二時間、三時間、時はようしゃなくたっていくのに、壮二君の消息は、いつまでもわかりませんでした。

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