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第1話

✤𝟙. 高嶺の花
薄暗い部屋の中、仄明かりを灯すように、白い肌が輝いている。

少女は長い栗色の髪をかき上げ、ほっそりとした首すじを露わにした。
少女
少女
……っ
つぷりと、瑞々しい肌に食い込む牙がある。

少女の背後から牙を突き立てるのは、ひとりの少年。
少女
少女
あ……は……っ
身体(からだ)の中に異物が侵入してきた痛みは、すぐに甘美な陶酔へと取って代わられる。


じゅるりと、何かを引き抜かれるように吸われ、少女は――
少女
少女
ああ……っ
閉じた瞼をぴくぴくと震わせ、歓喜の声をあげた。

薔薇の香りが匂い立ち、周囲を甘く染め上げてゆく――。
少年
少年
今夜の血も旨いな、お嬢
少年は、少女の首の付け根から唇を離す。
そして、口の端に滴る血を手の甲で拭った。
もうひとりの少年
もうひとりの少年
そうだね。薔薇の香りも
一段と濃くて……
少女と少年の背後には、もうひとり少年が控えていた。

二人の少年は瓜二つの美しい顔立ちをしており、その背格好もまるでそっくりだ。
もうひとりの少年
もうひとりの少年
次は、僕の番だよ。姫
もうひとりの少年
もうひとりの少年
うんと、気持ちよくなれるように……
吸ってあげるから
少女は、茫洋(ぼうよう)とした瞳で少年を見上げる。
少女
少女
は……い……
力の入らない身体(からだ)を二人の少年に支えられる少女もまた、西洋人形のように美しい容貌をしている。
少年
少年
お嬢。お前は俺たちの眷族(けんぞく)で――花嫁
少年が腕を前へ回し、少女のおとがいに指をかける。

そして、瞳を合わせて言い聞かせた。
もうひとりの少年
もうひとりの少年
キミの体に流れる、薔薇の香りの
血液は、すべて僕たちのもの……
もうひとりの少年も、少女の栗色の髪をやさしく梳(くしけず)りながら、少女が少年たちに隷属(れいぞく)する存在であると強調する。
もうひとりの少年
もうひとりの少年
……その、最後の一滴までも
少女
少女
……
少女は長い睫毛をわずかに震わせ、だが、何も言わなかった。
少年
少年
……お前は
もうひとりの少年
もうひとりの少年
キミは
少年
少年
俺たちに
もうひとりの少年
もうひとりの少年
僕たちに


   「「心も体も、すべては贄(にえ)として
     捧げられた――」」




   ・ ‥… † ††† † ††† † …‥ ・



曇天(どんてん)の昼下がり、私立薔薇ノ苑(ばらのその)学園の渡り廊下。

鞠衣(まりい)は長い栗色の髪をなびかせ、凛とした姿勢で生徒会室へと向かっていた。

黒いタイツに包まれた形のよい脚は、ごく小さな足音しかたてず、流れるような所作で前へと運ばれる。
女子生徒
鞠衣さまよ
別の女子生徒
今日もお素敵……
そんな鞠衣の姿を、学園の女子生徒たちは憧れのまなざしで見つめる。

それは、男子生徒とて例外ではなかった。
男子生徒
おい、お前副会長のこと
好きなんだろ
別の男子生徒
告白しないのか?
鞠衣を遠目に、数人の男子生徒たちが小声を交わし合う。
煽られた男子生徒
まさか
煽られた男子生徒
彼女は副会長といえど
理事長の孫娘であり、実質的に
会長をも凌ぐ権力を持っている
男子生徒
この学園に君臨する女王さま、
だよな
煽られた男子生徒
その通りだよ。
……僕なんか、とても……
鞠衣はそんな声を確実に耳にしつつも、意に介さず廊下を進み、別棟へと向かった。

そしてさらに階段を登り、辿り着いた最上階。その中央に生徒会室はあった。


まるで我が居室のごとく、ノックはせずにドアを開ける。

――しかし、室内には三人の制服姿の先客があった。
鞠衣
鞠衣
…………
女子生徒はあろうことか会長の机に腰掛け、その左右を二人の男子生徒が囲んでいる。


学び舎に似つかわしくない湿った熱気と、三人の乱れた胸元。
男子生徒ふたりの頬や首すじには、赤いリップの痕が付いている。


――この場で何が行われていたのか、明白だった。


だが、鞠衣は眉ひとつ動かさないまま、不埒な三人に淡々と告げる。
鞠衣
鞠衣
ここは部外者立ち入り禁止よ。
出て行きなさい
トーマ
トーマ
お嬢か。我が妹ながら頭が堅いよな
自らも机に体重を載せ、女子生徒の肩を抱く少年。

彼は鞠衣をからかうように、わずかに上目を遣う。
鞠衣
鞠衣
トーマ兄さま
ノア
ノア
見逃してよ、姫。ね?
眉を下げて鞠衣に懇願するのは、トーマと呼ばれた男子生徒にそっくりな少年。
鞠衣
鞠衣
ノア兄さま
彼もまた、鞠衣の兄だ。

トーマとノア、瓜二つの容姿をした美しい双子の兄は、鞠衣と血の繋がりがあるわけではない。
鞠衣
鞠衣
……お二人とも
鞠衣
鞠衣
当然のことですが、校内での
不純異性交遊は禁止です
しばし、鞠衣と兄たちは見つめ合った。

鞠衣の瞳は揺るぎなく、兄たちの懇願を撥(は)ね除(の)ける。
トーマ
トーマ
……はいはい
トーマは肩を竦めて女子生徒から離れ、ノアは女子生徒の胸元を直してやってから、一歩退(しりぞ)いた。
ノア
ノア
ごめんね、君
トーマ
トーマ
また今度な
二人は女子生徒の肩を押し、部屋から出て行かせた。
鞠衣
鞠衣
あなたたちも出て行っていって。
ここは生徒会室よ
女子生徒の出て行ったドアを閉めようとする二人に、鞠衣は告げる。
トーマ
トーマ
……はいはい、わかってるって
ノア
ノア
姫とも、仲良く
したかったんだけどな。
……残念
二人の兄はそう言い残し、未練がましく手を振りながら、あるいはこちらを振り返ったまま。


ゆっくりと生徒会室から出て行ったのだった。