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第2話

✤𝟚. 吸血鬼の花嫁
入浴を済ませた鞠衣(まりい)は、自室で鏡台の椅子に腰掛け、髪を梳(す)いていた。

鏡に映る栗色の髪はゆるやかに波打ち、控えめな光沢を放っている。


その、鞠衣の鏡像の左右に、突如として現れた二人の影。

それまで何もなかった空間に、忽然と兄たちが姿を現していた。
鞠衣
鞠衣
トーマ兄さま、ノア兄さま……
ノア
ノア
いい香りだね、姫。
新しい石鹸かな?
ノアが鞠衣の肩に鼻を近づけ、香りを吸い込んだ。
鞠衣
鞠衣
……
鞠衣は頬と耳を赤く染め、俯いてしまう。
ノア
ノア
ふふ、照れ屋さんだなぁ
トーマ
トーマ
学校とは大違いだ
鞠衣
鞠衣
……
トーマのからかいを含んだ声音に、鞠衣はそっと瞳を伏せた。

それから、控えめに口を開く。
鞠衣
鞠衣
いつも、普通に入ってきて
くださいと、言ってるじゃ
ありませんか……
だが、二人の兄の返答はにべもなかった。
トーマ
トーマ
めんどくさい
ノア
ノア
だよね
鞠衣
鞠衣
……
トーマ
トーマ
俺たちも吸血鬼になって長いからな、
ヒトの振りをするのは疲れるんだよ
ノア
ノア
学校だけで、勘弁してって感じ
鞠衣はもう、何も言うことができない。

家での鞠衣は、二人の兄に――兄と偽って暮らしている双子の吸血鬼に、隷属(れいぞく)させられているのだ。
ノア
ノア
僕、お腹すいちゃったよ。
はやく食べさせてね、姫
トーマ
トーマ
今日はどういう訳か腹が減ったな。
だけど学校でお前に噛みつく訳にも
いかねーし……
ノア
ノア
ね、早く……
鞠衣
鞠衣
……
鞠衣は二人の要求に応えて、豊かな髪を掻き上げ首すじを露わにする。
ノア
ノア
あれ、ここでいいの?
トーマ
トーマ
お前、良くなると身体(からだ)から
力抜けるだろ。
ベッドのほうが良くねーか?
ノア
ノア
だよね
鞠衣
鞠衣
あ……っ
トーマが鞠衣の身体の下から手を差し入れ、抱え上げられてしまう。

彼はそのまま、大股に足を動かしベッドへと向かった。


独り寝には勿体ない豪奢なベッドに、鞠衣の身体はそっと降ろされる。

トーマとノアはその左右に腰掛け、それぞれ鞠衣の肩と腰に腕を回した。
ノア
ノア
ああ、姫、美味しそう……
ノアがもう待てないとばかりに鞠衣の首元に顔を埋(うず)める。
そしてそのまま、牙が食い込んできた。
鞠衣
鞠衣
……っ
トーマ
トーマ
俺も……
トーマがノアとは反対の右の首すじに唇を寄せ、そして牙をたてる。
鞠衣
鞠衣
――……ッ
ずくんと、身体(からだ)の中心を走り抜けてゆく吸血の衝撃。

鞠衣はわずかに腰を跳ねさせてしまい、ベッドカバーが複雑な皺を作った。
ノア
ノア
ん……く
薔薇の香り立つ鞠衣の血液を、ノアは喉を鳴らして飲み込んでゆく。


甘美な陶酔に、脳を侵食される感覚。

鞠衣は喘ぐように息をついた。
鞠衣
鞠衣
は……っ
さらに、右の首元に牙を食い込ませたトーマからも吸血され、鞠衣は。
鞠衣
鞠衣
ああ……あ……!
背筋を仰(の)け反(ぞ)るようにびくつかせてしまう。
鞠衣
鞠衣
(ああ――、
この時だけは)
吸血鬼に隷属(れいぞく)させられ、ただ贄(にえ)としてその血を差し出す。

そんな自らの存在を、至上の喜びとさえ感じてしまう……。
ノア
ノア
……ふ
トーマ
トーマ
……ん
トーマとノア、二人の吸血鬼が鞠衣から唇を離したとき、鞠衣はもう身体(からだ)に力を入れることは適わなかった。


二人に身体を預け、蕩けた瞳で陶酔の余韻に浸る。
トーマ
トーマ
どうだ?
あの女にしてやったことより、
ずっとイイだろう?
ノア
ノア
姫は僕たちに血を捧げて、
とても気持ちがよくなれる。
……それだけじゃ、駄目かな?
鞠衣
鞠衣
……
トーマとノアの声音は殊(こと)のほか甘かったが、その言葉は鞠衣を少し冷静にさせた。
鞠衣
鞠衣
(……見透かされてる)
昼間、学校で、トーマとノアが女子生徒と不埒な行為をしていた。

鞠衣はあくまで冷静に、生徒会副会長として彼らを窘(たしな)めたつもりだった。


けれども彼らは、鞠衣が女子生徒に嫉妬したことを、まったくお見通しなのだ。
鞠衣
鞠衣
……お姉さまのこと
鞠衣は二人を見ないよう視線を外し、話をすり替えにかかる。
鞠衣
鞠衣
お姉さまのこと、
愛しているのでしょう?
――それなのに、他の女の子と関係をもつだなんて。


トーマとノアは少しだけ瞳を見開き、それから笑みを浮かべる。
トーマは喉の奥で、ノアはふっと息を吐き出して。
トーマ
トーマ
愛してるさ
ノア
ノア
だけどね、鞠衣
ノアが鞠衣の手を取り、そっと握りしめる。
ノア
ノア
今はキミが『吸血鬼の花嫁』なんだよ
トーマ
トーマ
……ああ。今はただ一人、
お前だけの血を
俺たちは糧(かて)としている
鞠衣
鞠衣
……
二人の吸血鬼は残酷な言葉を吐きながら、真摯に鞠衣の瞳を見つめてくる。

その視線が痛く突き刺さるようで、鞠衣はそっと瞼を伏せた。